IRの役割を高めるには
2026.05.25 (月) 3:30 PM
・IR(インベスターズ・リレーションズ)とは、会社のよさを投資家や株主に分かってもらうための活動である。会社には、業績がよい時も悪い時もある。業績が毎年連続的に伸び続ければよいが、そうはいかない。
・悪い時にもIR活動は続ける必要がある。次の打つ手は十分か。そうでない時にも、投資家にはわが社のよさを訴えていきたい。どうすれば聞く耳をもってもらえるか。
・どんな企業も、わが社の企業価値向上を目指す。価値をどのように測るかは、議論のあるところである。経済的価値では捉えきれない社会的価値もある。投資家によって、企業を見る着眼点も異なろう。
・経営者にはもっと大胆な改革に挑戦して、企業の収益構造をガラッと変えて、大きく儲かる会社に変身してほしいと思う。うまいストーリーが描けて、すぐに実現できればよいが、多くの場合そうはいかない。
・業績が落ち込んで、事態が深刻になってはじめて、今までやりたくなかった手を打つ。もっと早く動けばよいのにと思っても、追い込まれないと決められないし、合意も得られないことが多い。
・企業価値は非連続的に変動する。大胆な手を打ち業績が大きく落ち込んでも、それは次の浮上に向けた先行投資であると明快に説明してくれれば、そのチャレンジに共感する投資家も出てこよう。
・場合によっては、ドスンと落ち込んで、その後浮上できないかもしれない。経営者の経営判断が誤りである場合も多々ある。的確な判断を下す会社と、間違いを繰り返す会社の違いはどこにあるか。
・直接的な主因は経営者の資質によるが、実は個人のリーダーシップを超えて、会社のカルチャーによるところも多い。よって、よい会社かどうかをみるには、その会社のカルチャー(企業風土)を感じとる必要がある。
・昨年12月の「IRカンファレンス2025」(日本IR協議会主催)で、IR支援会社の話を聞いた。1つ目は、「統合思考」をどのように実践していくか。統合報告書を発行する会社が1000社を超えてきた。多くの上場企業は、わが社の価値創造の仕組みと実績を統合報告書の中で語っている。
・富士フイルムは、自社のパーパス(存在意義)を“笑顔の回数を増やしていく”と定めた。かつての写真フィルムの会社から大きく変貌したことはよく知られている。わが社はどんな会社か。事業の解説ではなく、一般的な社会課題のテーマでもなく、もっと自らの存在を捉えるものはないかとみんなで追求し、この「笑顔の日数」に行きついた。
・これが価値に結び付いていくか。笑顔について、社員、経営者の誰もが、自分ごととして語ることができる。経営トップもあらゆる機会に社員と語り合っている。この活動をステークホルダーに広げようとしている。
・働く人々の安心を整え、アスピレーション(志)レベルを高めていく。そうするとイノベーションが生まれやすくなる。このイノベーションを価値創造に結び付けていくという流れである。名プロセスにおいて、関わる人々の笑顔がみえてくる。苦痛、苦悩だけでは物事は進まない。笑顔を共通尺度として、パーパスを実践していく。
・このパーパスは、2024年の創業90周年を機に設定された。富士フイルムは新しいステージに入ろうとしている。パーパスは適切なタイミングで見直されてよい。写真を撮る時、やはり笑顔がよい。自分の笑顔、相手の笑顔、みんなの笑顔、なるほどうまいパーパスである。これを統合報告に表現していく。楽しい統合報告書に仕上がっている。
・では、2つ目として、ディスクロージャー(開示)をいかによくしていくか。会社の良さをいかに知らしめるか、ではなく、良さが伝わらないとすれば、どこに問題があるのか。
・大林組は、説明会で使うプレゼン資料を分かり易くしていった。アナリスト協会のディスクロージャー優良企業表彰の上位企業を参考に、投資家の意見を取り入れていった。当然、表現の見やすさだけでなく、経営の実態をよくしなければ表現に活かせない。アナリスト、機関投資家の意見を経営にフィードバックして、改革を促進した。
・投資家は、なぜ今この会社に投資するのか。その投資をしたくなるロジックをしっかり作りたい。そのためのヒントを会社のIRに求めている。
・社長、CFO、IR部署の担当者と会話した時に、わが社の成長ストーリー、業界での位置付け、資本効率、サステナビリティのインパクトなどを知りたい。ここを語ってほしい。そのためのディスクロージャー資料は役に立つのでありがたい。
・一方で、セルサイド(証券会社系)のアナリストがカバーしていない会社も多い。セルサイドは機関投資家が自社のトレーディング部門に売買の発注をくれるように、アナリストレポートを書く。
・これがビジネスである。当然、機関投資家が投資対象とする注目企業をカバーする。3800社の上場企業のうち、セルサイドが本格的にカバーする会社は500~1000社であろう。
・3つ目は、そうするとカバーされない会社は、内外の機関投資家や個人投資家に直接アプローチして、自社の良さをアピールしていく必要がある。
・1つの有力手段として、‘スポンサードレポート’が注目されている。会社がスポンサーになって、独立系のアナリストに会社紹介のアナリストレポートを書いてもらう。
・そうすると何がよいか。投資家の視点でアナリストレポートが用意されるので、会社サイドの説明資料、統合報告書とは一味違ったレポートが出来上がる。
・1)会社の視点とは別に、投資家の視点で会社の状況を知ることができる。2)このレポートを参考にして、機関投資家は企業と対話できる、3)企業もこのレポートを参考にしつつ、自らのIR活動を補強することができる。
・最近は、セルサイドがカバーしている会社でも、スポンサードレポートを用意する会社も出ている。例えば、東京エレクトンでは、海外の機関投資家で新規にミーティングを申し込んでくるファンドマネージャーやバイサイドアナリストがいる。もちろん、会社のIRサイドで情報はとれる。セルサイドのレポートも読むことができる。
・ところが十分でない。投資家の視点を取り入れ、1)会社の特色、2)会社の強み、3)中長期の会社計画、4)当面の業績、5)企業価値のポイントがまとまっているという点で、スポンサードレポートが重宝されている。最近は東証でも、このレポートの発行を推奨している。
・4つ目は、AIの活用である。IRのサポートにAIを活用することが進み始めた。今後数年で一気に広がろう。アナリストレポートの作成にもAIが活用されるようになろう。会社のIRが充実し財務データもデジタルで使い易くなっているが、AIのサポートでアナリストレポートが作成できれば、その利便性は高い。
・〈レベル1〉会社のIR方針にそったレポートが発行されよう。〈レベル2〉投資家の知りたいことを盛り込んだレポートが作成されよう。そして、〈レベル3〉特定のアナリストの個性を反映したレポートが発行されよう。
・例えば、筆者はアナリストが経験30年以上、直近では10社のスポンサードレポートを書いているが、この経験をAIに学んでもらって、私のアバター(ベルトーケン・スズキ)がアナリストレポートを書けば、10社ではなく、100社、1000社とレポートが発行できよう。
・これが本人と同等レベル、あるいはそれ以上となれば、大いに参考になりそうである。AIアナリストレポートの作成にぜひ力を入れたい。IRのレベルが上がり、投資家の企業を見る目が向上するならば、株式市場は一層活況となろう。
