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社外取締役に何を訊くか

   2023.04.03 (月) 5:58 PM

・「投資家との対話」という時、投資家は社外取締役に何を訊きたいのだろうか。社外取締役の活動や意見を知りたいと思ったら、統合報告書が役立つ。社外取締役のコメントが載せられていることが多い。

・アナリストとして、投資対象としての会社を分析する場合、私はまず決算短信をみる。統合報告書を読む。個別に知りたいことも含めて、有価証券報告書をみる。その上で、執行サイドにインタビューする。その時、社外取締役の活動についていろいろ訊くことにしている

・短信では、PBR=ROE×PERにフォーカスして、B/S、P/L、C/Fの財務データをみる。例えば、ROE 8%、PER 10倍ならPBRは0.8倍である。どうやったらROEが12%になるか。どうやったらPERが15倍になるか。

・さらに、どのようにしてPBR=1.8倍を実現するのか。非財務情報に戻して可能性を探っていく。ここで、ESGが重要になり、Gが決め手となる。その上で、株価が2倍になるくらいの妙味が見いだせなくては、アクティブ投資の醍醐味はない。

・統合報告書では、CEO、CFOメッセージが最も大切であるが、社外取締役が取締役会をどのように監督しているかも、会社の強さを知る上で、極めて重要である。サステナビリティの軸はESGにあるので、Eを支えるガバナンス、Sを支えるガバナンスも同時にみていく必要がある。

・筆者は数社の中小型企業の社外取締役をやっているが、社外取締役として投資家と対話したことはない。そこまでのニーズがないと思われる。

・セルサイドのアナリストが、社外取締役の私に面談を求めてきたことがあった。その時はIRの責任者が同席した上で、私にアナリストとして会社をどうみているかを聞きたい、という話になってしまった。これでは、立場上答えようがない。取締役会での活動を説明するにとどめた。

・では、社外取締役は企業の中で、どのような活動をしているのか。講演を視聴した3名の方から、参考になることを取り上げてみたい。

・エーザイの社外取締役である三和氏(明大教授)は、サステナビリティへの貢献を強調した。企業の価値創造とリスクをいかに捉えるか。People、Planet、Profit の3つのPに関わる価値創造において、自らの活動が‘何をもたらしたいか’を真剣に問うていく。もたらしたいことを、あるべき姿と定めて、その実現に向けて活動していく。ハードルは高そうだが、エーザイの執行サイドもそれを求めていると推察する。

・リクシルで社外取締役を務める松崎氏は、取締役会議長である。コニカミノルタで技術戦略を担当、社長、会長(取締役会議長)を経て、現在は特別顧問である。会長は非執行の議長である。

・社長の時は、取締役会から監督される側、会長(議長)の時は監督する側にまわった。社長の時に、けむたいこともあったという。しかし、しっかりチェックされていることが分かって納得した。

・議長の時は、会社のことがよくわかっているので、監督という立場で議論をリードした。持続的成長を目指すために、社長の思い通りにいかないこともありうる、という仕組みが重要であると強調した。

・取締役会は、①誰に経営を託すかを決める、②経営の基本方針をしっかり定める、③内部統制のあり方を承認する。その上で、具体的な舵取りは執行サイドに任せる。

・では、取締役会を機能させるには、どうしたらよいのか。まずは、監督と執行を分けることである。監督で、最も大事なことは、「oversight」であるという。見落とすことなく、気づきを得ることができれば、執行サイドはマネジメントに新たなインセンティブがわく。

・ちょっと待ってという雰囲気で、スピード感、方向感を合わせていく。リスクに気付いて、スピードのずれを調整していく。こうなれば、リスクをとって攻めることができる。

・では、取締役会で、社外取締役は本質的な意見を言えるか。その意味において、社外取締役の資質が重要である。サステナブル経営に資する取締役を揃えられるか。いかに異なるスキルを集めてくるかが問われる。

・日本板硝子の社外取締役を務める皆川氏は、リコーの常務執行役員(CFO)を経て、ソニーの社外取締役なども経験した。海外事業のマネジメントが長く、子会社の立ち上げや買収した会社の再建なども手掛けた。

・社外取締役の心構えとして、5つあげた。第1は、取締役会の機能発揮で、メンバーの一人として経営陣を監督していく。第2は、株主の視点と経営者の視点を複眼的に活かす。株主の立場に立ちながら、経営者の視点で、経営課題を共有する。第3に、業務の執行には立ち入らない。業務執行、成果、見通しを評価していく立場をきちんと守る。

・取締役会で決議しても、それが社員に腹落ちしていないことも多い。社内の施策として生きていなければ、当然結果はついてこない。ここをしっかり見ていく。

・第4は、取締役会事務局とのコミュニケーションである。社内の情報、他の社外取締役との情報共有を行い、取締役会での議論のレベルを上げて、まとまりを作っていく。

・第5は、的確な質問をして、執行サイドのコミットメント(約束)を引き出していく。執行には立ち入らないが、中身については予習、復習して、詳しく理解しておく。自分の意見を安易に言うのではなく、経営者のコミットメントを確認していく。そうすると、どのくらい達成したかを判断しやすくなる。

・とりわけ海外事業については、リスクの末端までみていく。執行サイドがリスクをとって攻められるように、取締役会を機能させる。KPIを立てて、共有できるようにする。そうしないと議論がぶれて、モニタリングが弱くなる。

・3名の識者の視点をどのように活かすか。社外取締役のあるべき姿を知った上で、投資家としては、2つの質問が重要になろう。

・1つは、執行サイドに社外取締役の活動で意思決定に役立ったことを具体的に訊いていく。ここから議論の輪を広げたい。もう1つは、社外取締役に、取締役会で何を重視して、どんな質問をしているかを具体的に訊いてみることである。いずれも、投資家としての企業価値評価に大いに役立とう。

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