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日銀はETFをいつまで買うのか

   2019.02.02 (土) 3:25 PM

・1月の野村IRフェアで、NRIの木内登英氏(エグゼクティブ・エコノミスト、元日銀審議委員)の講演を聴いた。テーマは「異次元緩和の出口戦略と世界経済危機」であった。

・筆者の最大の関心はETFをいつまで買って、日本の株式市場を支えていくのか、という点にある。木内氏の意見を参考に、今後のマーケットをみる注目点について検討してみたい。

・来2020年の秋には米国の大統領選挙がある。そこまで景気はもつのか。リセッションに陥ることはないのか。今のところそのような動きはないが、政策の失敗がリスクシナリオとして懸念される、というのが木内氏の見立てである。

・米中の貿易戦争は激化しており、これは今後長く続くものと想定できる。米中の覇権争いであり、新しいテクノロジーを巻き込んだ軍事的優位性の争いでもある。経済力がなければ軍事も支えられない。その経済力は技術革新がリードする。

・米国にとっては、中国のここからの台頭はなかなか許容できない。一方、中国は米国に代わる覇権を目指しているともみられる。

・トランプ大統領はあと2年で次へ交替するのか。もう4年やることになるのか。米国ファーストで、自らの支持層のみにフォーカスした政策を徹底的に追求している。

・これまでの覇権国のリーダーのように、バランスを考えて調和を図るという考えは全くない。よって、内外で限りなく波風が立ち、国際関係は揺れることになろう。

・中国の習近平は任期を取り払っている。米中貿易戦争は、中国にとっても経済的にマイナスに働くので、一定程度の譲歩を図りながら、トランプ大統領がいなくなるまで時間稼ぎをするという公算も高い。

・一方で、争いが過激化すれば、いずれ本当の戦争に至るのか、という論点も注目されている。地勢学的リスクは至るところで高まっており、代理戦争のような衝突は容易に起こりうる。

・木内氏は、OECDの分析をベースに、米中の貿易摩擦が激化すれば、それがGDPに与える影響として、中国は-1.0%、米国は-1.4%、そして日本にも-1.0%のインパクトを及ぼすとみている。これが1年で一気に顕在化するのか、互いにせめぎ合いながら多少は譲歩して、インパクトを小さくしていくのか。その折り合いは容易ではない。

・6%成長の中国、2%成長の米国、0.8%成長の日本という実力からみると、摩擦激化によって日本はマイナス成長になりかねない。日米貿易交渉では、農産物と自動車がテーマになろうが、何とかマイルドな形にもっていって、トランプ大統領に花をもたせる必要がある。

・実質実効為替レートでみると、今の円ドルレートは均衡水準から20%くらい円安になっているという見方が有力である。米国がこの点を突いてくる可能性もある、と木内氏はみている。

・貿易摩擦の余波やトランプ発言で、円ドルレートが100円を切る場面になると、日本の株式市場はかなりの調整を迫られよう。日経平均2万円から-20%となることもありうると筆者はみる。

・5月の新天皇の即位や、来年7月のオリンピックは人々のマインドを明るくしよう。一方で、今年10月の消費税引き上げはネガティブに働く。

・この消費税引き上げの影響については、さほど大きくないとみられる、2014年の+3%の時は、GDPに-1.5%、-8兆円のインパクトがあったが、今回は+2%に対して、軽減税率(食料品や教育など)のプラスもあるので、GDPは-0.4%、-2.2兆円のインパクトにとどまろう。

・さらに、景気対策も打たれるので、かなり吸収されることになろう。しかし、その時の景況感が、世界経済の波乱、貿易摩擦や為替の円高を通して国内に及んでくると、人々のマインドを一気に悪くしてしまうかもしれない。こちらの方が心配されると木内氏はみている。

・政府はどうするのか。摩擦や紛争が激化しないように、外交によってマイルドなバランスが働くように必死で調整することになろう。それでも、もし不況感が強まってくるならば、財政面での景気対策は打たざるをえない。

・日銀はどうするのか。2%の物価目標の達成は難しいと分かっているが、その旗は降ろさない。木内氏は審議委員の時、黒田氏の金融政策に対して常に批判的であった。それは効かない政策の副作用を懸念したからである。

・木内氏は、日銀はすでに軌道修正をしつつあるとみている。国債を買うペースはおとしており、長期金利の変動幅(0%±0.1%→±0.2%)にものりしろをつけた。経済が順調なら今後ETFの購入ペースもおとしていくかもしれない。

・しかし、米国、欧州に続いて、日本も金融の正常化を目指して出口戦略に向かう、と日銀は言わない。物価目標2%の旗も降ろせない。何よりも円高を怖れている。ここで100円を切る円高になれば、デフレに戻り、輸出企業の業績も大幅にダウンする。消費税の引き上げにも多大に影響するからである。

・トランプショックが起きなければ、摩擦の波風はあっても世界経済は何とかもつことになろう。その中で、円ドルレートを105円以上にキープできれば、日経平均も2万円台は確保できるものとみられる。

・しかし、ここから2年をみると、波乱は十分ありうる。その時、どうするのか。株式市場にとっては、日銀が年6兆円ほど買っているETFの行方が気になる。現在の残高は23兆円まできている。

・これが30兆円の残高に膨らんでも、現在の東証1部の時価総額560兆円が将来1000兆円に向かうのであれば何ら問題ない。

・日銀の自己資本は8.2兆円であるから、30兆円のETF残高に対して株価が30%下がると、債務超過になってしまうほどのインパクトを有する。

・そういう局面では、日銀に公的資金の投入が必要になるかもしれない。あるいは、日銀保有のETFの受け皿機関が必要になるかもしれない。

・日本企業の稼ぐ力はかつてより高まっているが、まだ十分ではない。今後起きるかもしれないトランプショックについて、引き続き注視していきたい。

 

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