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ウクライナの行方と日本の対応~共存に向けて

   2022.10.12 (水) 4:26 PM

・地政学的リスクの行方はほとんど見通せないが、座視するわけにもいかない。8月に安全保障スペシャリストの森本敏氏(元防衛大臣)の講演を視聴した。30年前からその見識に触れてきたが、的確な分析と見通しはいつも新鮮である。

・国際社会の価値観はますます分かれており、対立と分断が際立っている。民主主義と異なる仕組みを有する国々は多く、中国、ロシアだけが特別ではない。8月のNPT(核兵器不拡散条約)の再検討会議も、合意文書はまとまらなかった。5年に1度の会議がもはや機能していない。

・ロシアによるウクライナ侵攻については、それぞれの思惑が外れている。ロシアはウクライナ全土を一気に掌握することができず、東部地区に集中せざるをえなくなった。西側はウクライナを支援しているが、どこまで支援を続けるかについてはまとまっていない。

・ドイツ、フランス、イタリアは早めの停戦を指向する。米、英はロシアを徹底的に叩くつもりである。ウクライナ政府は、クリミアも取り戻すべく反撃を続けるという。

・西側はウクライナの軍事訓練をサポートし、有力武器も送っている。この支援が続くならウクライナは有利かもしれない。これに対して、ロシアは宣戦布告を行って、本格的戦争に突入するのか。追い込まれて、核兵器を使うことも辞さないのか。かなり危うい。

・そこまで追い込まないとすると、双方とも消耗戦が続くことになる。原子力発電所の破壊、生物化学兵器、戦術核兵器の使用へとエスカレートするなら、NATOとの全面戦争に広がる。まさに第3次世界大戦になるかもしれない。

・米国、NATOは、ロシアを追いつめてきた面もあるので、今回の紛争はかなり際どい。これが中国、台湾の行方にどう影響するか。森本氏はここでも、かなりの危機感を持っている。

・中国共産党は、台湾に逃げた蒋介石の国民党の歴史を打破して、何としても台湾を統治するつもりである。いつかはやる、必ずやる、とみておく必要があると強調する。

・習近平国家主席は今秋で3期目に入る。その次の党大会は5年後の2027年であるが、ここで4期目を目指すとすれば、それまでに台湾を統一しておく必要がある。これを成果にしたいはずである。2024年には、米国、台湾、ロシアで選挙がある。トップがどのような人物になって、国際情勢を動かしてくるか。

・ロシアの軍備は最新鋭ではない。欧州は、ロシアの天然ガスを本当にいらないのだろうか。ロシアは中国、インド経由で外貨を手に入れる道を確保している。ウクライナは独立国であるが、台湾はそうではない。

・台湾を占領するために、中国軍は一気に動く作戦をとろう。軍隊の上陸が必要であり、そのためには圧倒的でないとできない。周辺国への陽動作戦も同時に取ろう。尖閣諸島も攻めてこよう。北朝鮮も動くかもしれない。様々なシミュレーションがすでに検討されているようだ。

・では、そのような中国を制裁で封じ込められるのか、といえば、相当難しい。日本は必ず巻き込まれる。日本の安全保障戦略の立案はこれからである。こうした事態を想定し、国民に一定の合意を得て、防衛費の増大を図り、準備していく必要がある。

・中国は1500発も弾頭ミサイルを持っている。極東の米軍にはそれほどない。日本はそもそも戦う体制はとっていない。情報と武器、サイバーとリアルのハイブリット戦争を想定し、それを抑止するための体制を整えていく必要がある。森本氏はこのように強調する。

・ウクライナ戦争の行方を、ここまで広げて、自らのこととして考えるというのは、日本にとってかなり難しい。楽観的期待だけで、事なしを得る、というわけにはいかない。

・中国でビジネスを展開する日本企業は多い。サプライチェーンから見て、中国は重要である。軍事・外交と経済社会の両立を図って、対立の激化を避けて互いに共存できるような道を何としても確保したいものである。

・どうすればよいのか。「正義の戦争」はないという見方をくれぐれも心に留めたい。自らの正義で、相手を追いつめないことである。米国はベトナムでも、イラクでも、アフガンでも思い通りにはなっていない。西欧は、今は民主主義国といっても、かつては植民地支配の帝国主義で領土の拡大を図った。

・価値の共有はできないとしても、人々を支えるテーマについては共通するものがあろう。SDGsに反論する人はいない。利害の対立が一定程度あるとしても、共存のための枠組みと競争の土俵は確保したい。気候変動やパンデミックへの対応は、人類を守るために共有できるはずである。

・現在の対立ではなく、将来世代のサステナビリティに目を向ければ、対話は続けられよう。文化や制度の違いを認識し、克服しつつ、共存の道がみえてくるはずである。先を見据えて、共存を支える投資(共生のためのインパクト投資)に邁進したいものである。

 

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