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アナリストの強みを社外取締役に活かすには

   2023.02.08 (水) 6:34 PM

・昨年、「公認会計士の強みを社外役員として活かす」というパネルディスカッションに参加した。企業経営において、サステナビリティの課題にどう向き合うか。取締役会の取り組みはいかに変化しているか。その中で、専門家が社外取締役に就く時、スキルマトリックス上、何が重要になるのか。これらが論点であった。

・上場企業の約6割で、公認会計士が社外役員(社外取締役、社外監査役、社外監査等委員)に就いている。会計士は財務のプロであるが、最近は非財務情報が重視されている。財務情報でも、過去のデータだけでなく、将来の収益は関わる見積や認識が問われており、経営を見通す力が問われている。

・筆者は数社の社外取締役を務めている。取締役会でのスタンスは、常に少数株主の立場にたっている。そこでの言動はアナリスト活動そのもので、会社説明会や個別ミーティングに臨むのと全く同じ姿勢で取り組んでいる。

・証券アナリストという専門職をベースにして、心がけていることは5つある。第1に、投資家として知りたいことを丁寧に聞いていく。マネジメントの個性をよくみて、答えられるように質問することが大事である。

・第2に、執行サイドの戦略とその意図を確認していく。私が疑問に思うようなことは、当然とっくに考えているはずである。そのロジックを引き出していく。

・第3は、取締役会の別のメンバーに似たような質問をして、主流の考えとは違う意見を引き出していく。他の社外取締役に聞いてみることも有効な方法である。

・第4に、素朴に疑問に思ったことを、タイミングをよく率直に聞く。但し、思い付きではなく、事前に熟慮しておく。議論に乗ってくるなら対話は弾むし、嫌な顔をするようならそれはそれで一定の解釈ができる。

・第5は、ムキにならないことである。意見が違っても、次の局面で変化してくることもある。常に場を盛り上げるように発言していく。大事なことは社外取締役として一目置かれることである。①少し刺激的で、②何か参考になり、③議論を通して共感が得られるように参加する。

・会計士はその役割として、長年企業の監査を担当している。KAM(監査上の主要な検討事項)を通して、ステークホールダーとの接点も増えている。非財務情報が未財務情報となり、それが財務情報へとつながっていく。ここをうまくつないでいくことができれば、会計士として専門性が大いに発揮されよう。CEOやCFOと的確に会話していくことができる。

・実践してほしいことは、1)会計士出身の社外役員として、自分なりのフレームワークを固めておく。企業価値向上に当たって、自らの強みを活かしつつ、組織能力が高められるような言動を構成してほしい。

・2)その会社の将来を自分なりに予測する。予測は簡単ではないし、当てるのはもっと難しい。しかし、予測という視点を突き詰めると、マネジメントサイドと感覚が共有できるようになる。迎合するわけでないが、経営判断や意思決定のプロセスが明確になってくる。

・3)経営にしっかりもの申すことである。経営者は不安を抱えている。自信過剰の時もある。いずれも危うい面を有する。するどく発言し、新たな気付きや、判断の見直しに結び付ければ、存在感が出てこよう。

・では、証券アナリスト出身はどうか。日本証券アナリスト協会のアナリスト資格やCFA協会の資格を有している人々は多様である。金融界や資本市場で多様な活躍をしている。

・セルサイドやバイサイドのアナリストからスタートした人で、1)プロとして業をずっと続けている人、2)ファンドマネージャーになる人、3)投資銀行に進む人、4)管理職となってマネジメントに進む人、5)独立して事業会社を営む人、6)上場企業の経営サイドに転身する人など、さまざまであろう。

・アナリスト出身で、社外役員になっている人はいろいろいる。みずほ証券の菊地ストラテジストは、これに関する分析レポートを出している。

・やりたい人は大勢いるのに、思ったほど増えていないという。市場との対話という点でアナリスト経験者が上場会社の社外役員になれば、議論が盛り上がって企業価値の向上に貢献しそうでるが、そういう動きとは距離がある。

・プロのアナリストというだけでは、1)肩書きがない、2)取締役会の経験がない、3)評論家的言動で経営の実践が十分でない、という見方もある。

・逆に、①企業の分析力がある、②他社比較ができる、③株式市場が分かっている、④投資家をよく知っている、⑤対話を通してIRのコツをつかんでいる、という良さもある。

・ちょっとした対話では、企業経営は動かない。アクティビストのような過激な強制力が必要なのであろうか。この点からみると、通常のアナリストは食い込みが足らないのかもしれない。

・筆者の経験では、狭い意味でのアナリスト業を続けても、社外役員になってほしいという声はかかりにくいし、推薦も得られないであろう。まずは、分析力や予測力、提言力で一目置かれることである。

・次に、プロとしての活動を継続し、情報発信のアウトプットを出しつつ、組織マネジメントの経験を積むことが必要である。組織を動かす人望とは何かを一定程度体験していないと、企業マネジメントからは社外役員としての資質として一目置かれないと思う。

・アナリスト資格を有する関係者には、プロとしてのスキルマトリックスを磨きつつ、資本市場の番人という立場も踏まえて、社外取締役としてぜひ活躍してほしい。日本企業の価値向上に間違いなく貢献できよう。

 

 

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