監査からみた企業価値向上
2026.04.20 (月) 7:38 AM
・政府の成長戦略として、17の重点分野があげられている。代表的なものとして、1)量子コンピュータの国産化、2)国産フィジカルAI、3)サイバー防衛、4)宇宙開発、5)次世代エネルギー、6)観光DX、7)防災テック、8)スマート農業などがある。
・こうした成長戦略を遂行するに当たって、リスクマネジメントをいかに確保するか。その1つの重要な施策が、経済安全保障の実践である。昨年11月に公表された「経済安全保障経営ガイドライン」では、2つの軸が強調されている。
・1つは分散型の自律性の強化であり、もう1つは、なくてはならい存在としての不可欠性の強化である。地政学的リスクと経済はもはや分けられない。特定の地域への過度な依存を避ける自律性は十分確保しておく必要がある。自らの存在が世の中にとって不可欠であるような領域を拡大していく不可欠性も重要である。
・サプライチェーンが途絶するリスクを考慮し、製品やサービスのセキュリティを堅牢に保ち、自社の知財やコアテクノロジーの流出防止を図る必要がある。とりわけ、バックドア(裏口)から意図的に仕込まれて、不正侵入されてしまう「バックドア埋め込みリスク」には十分注意する必要がある。
・サプライチェーンを含めてなくてはならない存在になるには、イノベーションを創出して、それを活かした製品・サービスをしっかり守っていく必要がある。それが不可欠性を確保する取り組みである。
・今回のガイドラインでは、3つの原則を強調している。1)自社のビジネスを正確に把握し、リスクを策定せよ。経営者はもちろん自社のビジネスが分かっている。しかし、将来は思うようにはいかない。自社のバリューチェーン上の脆弱性を特定した上で、想定外のショックも、シナリオとして描いておいてほしい。
・2)経済安全保障への対応を単なるコストではなく、投資と捉える。リスクマネジメントへの対応は短期的な利益と対立しがちであるが、持続的価値創造を図るには、その仕組み作りは投資である。
・3)マルチステークホルダーとの対話は欠かせない。当然であろう。株主、金融機関、取引先、顧客、地域社会、政府行政との対話は、リスクマネジメントについて、わかってもらう上で欠かせない。その必要性については、本当に必要か。もっとやるべきではないかなど、立場によって意見が分かれるかもしれない。経営陣の熟慮断行が評価される場面となろう。
・監査法人のフォーラムに参加する機会があった。監査品質をいかに高めるか、地政学リスクへの対応、AIや暗号資産などデジタルの活用について議論があった。
・投資家などステークホルダーは、監査法人の監査を信じている。通常そこに不正があるとは思わない。それでも上場会社において、粉飾は発生する。粉飾という意図的な不正でなくても、会計処理における見解の相違は起こりうる。
・経営サイドは、財務的な数字を実態よりもよくみせたい、あるいはよくみえるのを抑えたいなど、さまざまな行動をとることがありうる。一方で、監査法人はフェアに判断しようとするが、場合によっては保守的になりかねない。あるいは逆に、会社サイドに寄り過ぎて実態をかくしてしまうことがあるかもしれない。
・その意味で、監査品質の向上と維持は必ず確保してほしい。さらに最近は、財務的な数値だけでなく、非財務的な情報についても監査法人の保証(アシュアランス)を付けるケースが増えている。
・開示情報の信頼度を高めるという点では、ステークホルダーにとってアシュアランスが付くことはありがたい。サステナビリティに関する情報について、アシュアランスが付くと確かに信頼度が高まる。
・ESGなどのサステナブル情報について、環境関連のデータや情報、人材など人的資本に関するデータや情報について、開示の義務付けが増えているので、それに対するアシュアランスは望ましい。
・監査におけるAIの活用も急速に進もうとしている。データ及び定性的情報についても、まずはAIでアシストし、それらの分析結果や課題を最後は監査人が判断していく。そうすると監査の範囲も深さも強固なものとなってこよう。
・不正がしにくく、フェアさが増してくるならば、監査品質は高まってこよう。さらにスピードが上がり、生産性も高まるならば、ステークホルダーにとっての監査価値も高まろう。監査法人への報酬もこの監査価値をベースに形成されていくことが求められる。
・投資家にとってはどうか。企業の開示情報は過去の実績であり、あるいは、現時点での判断である。しかし、投資家が知りたいのは、将来の行方である。実績を踏まえて、将来を予測したい。これは経営者と同じスタンスである。
・将来は予想しがたく、不確実であるとしても、何らかの蓋然性(確からしさ)は常に求められる。価値創造の仕組みであるビジネスモデルをどのようにブラッシュアップしていくのか。そのためのアセットをいかに磨いていくのか。
・地政学的リスクを取り込みながら、AIの活用もどんどん進む。企業は経営革新に大いに挑戦していく。そうでなければ、生き残れないであろう。
・挑戦すれば、失敗も起こりうる。それを逐次修正しながら、成長を求めていく。その狭間において、厳しい局面にもさらされよう。その時にもフェアなディスクローズを徹底してほしい。
・監査法人のアシュアランスは一定の岩盤である。それを踏まえて、投資家も勝負していく。自らのポートフォリオを形成して、企業の価値創造を自らの資産形成に結び付けたい。これが投資のバリューチェーンである。監査価値をしっかり認める企業に投資を継続したい。
