人的資本をいかに定義するか
2026.10.14 (水) 9:02 AM
・国の経済力は通常GDPでみる。国が1年間に生み出した付加価値である。GDP=人口×1人当たりGDPであるから、人口が減っていく社会において重要になるのは1人当たりGDPの向上である。1人当たりGDPは、国民1人当たりの生産性である。
・1人当たり生産性=付加価値/人数=設備/人数×付加価値/設備と表せる。これは、人数当たりの設備を増やして、その設備が付加価値を生み出してくれれば生産性が上がることになる。
・これにAIを当てはめると、生産性=1人当たりAI投資×AIの設備投資効率×設備生産性となる。つまり、AIが人の仕事の効率を高めつつ、設備の性能をAIで向上させ、その設備が大きな付加価値を生み出してくれれば、AIへの投資が生産性を高めよう。
・これを国全体でみれば、AIにはデータセンター(DC)が必要であり、そのためには膨大な電力を必要とする。電力設備投資が拡大して、DCが高性能化して、産業において、社会において、家庭において、AIがサポート役を果たしてくれるならば、国全体の付加価値が高まり、私たちの生活も快適になる。
・AIがGDPを増やして、ウェルビーイング(幸福度)も高めてくれよう。このような付加価値を高める投資が求められており、そのためのイノベーションが、政府が目標とする17の分野で展開されようとしている。
・では、人数ではなく、人の質をいかに高めるか。そのための人的資本をどのようにみていくか。生活者としての人は、さまざまな価値観を持って生きている。働き手の人材を見る時には、働き甲斐と働き易さが重要である。
・組織からみると、人材が一定の役割を果たし、能力を高めてより重要な仕事をしてくれるなら、こんな有難いことはない。付加価値の高い仕事をこなしてくれるので、生産性は高まろう。その組織の生産性が上がり、本人の報酬にも反映されてこよう。
・企業でみれば、社員の人件費は費用としてP/Lに計上される。社員がいなければ、企業活動は成り立たない。優秀な社員を採用し、育成し、それを組織能力に高めていく。その人材をマネージすることが経営力である。
・人材を人的資本とみると、人的資本は人材への投資であり、単なる費用ではない。この人的資本はB/Sに載っていない。1つ目として、どのように測ればよいのか。
・社員が100人いて、年間10人採用して、10人が辞めていくならば、新規採用率10%、退職率10%である。計算上が10年で全社員が入れ替わっていくことになる。1000人の会社で採用率5%、退職率5%なら、20年で社員が入れ替わっていく。
・今時、若い社員は遠慮なく辞めていく。高齢の社員は能力格差が大きく出るので、会社にとって適切でない社員として増えていくかもしれない。リスキリングしてうまく活用する経営力が問われる。
・1年間の総人件費をベースに、今いる社員はあと何年働いて会社の付加価値創造に貢献してくれるか。平均10年程度は期待できるであろうか。
・とすると、今のB/Sに人的資本(人的資産)として、10年分の総人件費をオンしてみることも意味があろう。10年分の人的資産のうち、1年間の人件費が人的資本の償却に相当するという見方ができる。
・実際は、優秀な人は人的資本として劣化しないし、質が高まっていく。その逆の人も出てくるので、1つの解釈である。
・人的資本をB/Sに載せてみると、B/Sのイメージがガラッと変わってこよう。実際、わが社の人的資本をどのように評価するかは、その会社のビジネスモデルによって変わってこよう。
・2つ目に、この人的資本を活用した生産性を、ROEとどのように結び付けていくか。PBR=ROE×PER、EBITDA倍率(時価総額/EBITDA)という指標が注目される。EBITDAはキャッシュインフローである。M&Aの時には、EBITDA倍率がよく使われる。このEBITDAに人件費を加えたものが付加価値である。
・ROE=VAOE(付加価値/純資産)×利益分配率(利益/付加価値)となるので、純利益を高めるには、何よりも付加価値を高める必要がある。
・1人当たり付加価値=1人当たり人件費×付加価値人件費比率=1人当たり人件費×設備人件費比率×付加価値設備比率=1人当たり人件費×人件費AI設置率×設備AI比率×付加価値設備率、となる。
・意味するところは、生産性を上げるには、人的報酬をしっかり上げながら、AI投資を行い、そのAIが設備に使われて効果を上げ、設備が付加価値を増大させていくという構図である。
・そこで高まった生産性を基に、付加価値の配分をどう行うか。人件費は社外流出(キャッシュアウトフロー)であるが、これは社員の収入である。次にしっかり働いてもらうための報酬である。まさに人的資本の源泉である。
・付加価値=人件費+EBITDA=人件費+減価償却+のれん償却+営業利益 なので、生産性見合いの報酬アップは当然であり、将来を見据えて人件費に先行投資することも十分意味がある。これが人的資本投資である。
・3つ目は、人的資本とAIをどう結びつけるか。人の能力には、意思決定力、情報処理能力、制御能力などがある。判断して決めること、情報を感知して収集すること、決めたことを作業として行動に移すことなどである。
・ここにAIを使うとすれば、意思決定をAIでサポートする、情報処理をAIでサポートする、動作の制御をAIでサポートすることになる。
・あらゆる機器にAIが入っていくので、フィジカルAIもどんどん広がろう。そうすると無人で人がいなくても働いてくれることになる。ここまでくると、1人当たり生産性は大きく上昇することになろう。
・ものづくりの工場、人にサービスする現場、医療・介護などのエッセンシャルワーカーの仕事場にもAIが入り、生産性を高めてくれるならば、人手不足への対応も進もう。
・人的資本を人的資産としてB/Sに仮想的に取り込み、人的資本の質を高めつつ、AIの活用を通して、生産性を上げていく。この生産性と収益性を結び付けて、企業評価に活かしていく。
・人的資本投資を、生産性の向上を通して、人材と株主への付加価値配分をバランスよく高めていく。Win-Winのソリューションがありうる。新しい人的資本の定義とその活用に注目したい。
