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なぜ投資できないのか

   2026.03.25 (水) 8:41 AM

・この10年のコーポレートガバナンス(CG)改革は、どのような成果を上げてきたのか。上場企業にとって否応なく迫られたCG改革は、形を整えるところから、実質を伴うところまで浸透してきたのであろうか。CGの先進企業は、CG改革で会社がよくなっているのか。逆に、よい会社であるから、CG改革が進んでいるのか。その因果関係についてはさらに踏み込んでみる必要がある。

・まずは、ROEを上げろと要請された。資本効率優先になると、短期的な手を打とうとする。コストを下げて利益率を高め、自己資本の適正化を優先する。そうすると、ROEは改善しつつ、現金がたまってきた。投資するよりも株主還元の方が効率よくみえてしまう。デフレ時代に社員への労働分配率は低めに抑えられた。賃金抑制はコストカットに結び付くからであった。

・しかし、ROEをもっと向上させるには、投資をして本業の成長力を高め、収益性を上げる必要がある。ポートフォリオを入れ替えよ、R&Dを強化せよ、人材投資を行え、となった。投資には、M&Aが手っ取り早い。よって、M&Aはどの企業にとっても当たり前の戦略となった。

・「選択と集中」よりも「両利きの経営」による一定の多角化が望ましいトレンドとなってきた。そうなると、経営者に求められる資質も違ってくる。新しい経営者を的確に選ぶ必要がある。取締役会の機能ももう一段高める必要がある。経営者と社外取締役のバージョンアップが必須であると、日本取締役協会の富山会長は強調する。

・新しい指標が必要である。例えば、投下資本付加価値率はいかがであろうか。人的資本を重視するのであれば、人的資本に対するリターンも考慮すべきである。よって、企業が生み出した付加価値額が投下資本に対してどのくらいのリターンを生み出しているかを測る必要がある。ここでいう投下資本には人的資本も含めていく必要がある。

・次にその付加価値をどのように配分していくか。これまでのキャピタル(あるいはキャッシュ)アロケーションでは不十分である。人件費を費用として差し引きした後ではなく、人件費を賄う付加価値を明示的にとらえて、その配分を検討する。

・人件費控除前営業キャッシュフロー(粗付加価値額)から投資・財務キャッシュフローを引いて、例えば5年単位のネットキャッシュをみていく。ここで投資キャッシュフローには、人材資本としての人件費を含む。財務キャッシュフローには株主還元も入っている。

・ステークホルダーへの配分を付加価値の配分として、同時的に最適解を求めていく。その場合の基本方針として、1)バリューチェーンからみた付加価値額をどのくらい稼ぐのか、2)人材投資、設備投資、      R&D投資、M&A投資はどのくらい実行するのか、3)その場合、株主還元の水準はどのように定めるか。ここを含めて、次世代のビジネスモデルを構築していくことが重要であろう。

・現在の企業価値創造のゲームのルールは、将来キャッシュフローの現在価値によって、株主価値が決まるというものであるが、これをもっと精緻化していく必要がある。現在の株式市場では、1)PBR=ROE×PER、2)株価=EPS×PER、3)株式価値=EBITDA×倍率、という指標が常識となっているが、ここに投下資本付加価値率を持ち込むようにしたい。

・経団連の冨田審議会議長(JR東日本元会長)はリソース配分、付加価値配分の見直しによる公平性の確保を強調している。CGにおいて、経営者はもっとエクスプレインしてよいし、投資家は企業価値のあり方を見直す必要があると語る。

・早大の柳教授(元エーザイCFO)は、非財務資本と企業価値をつなぐ柳モデルを開発して、その実証と実効性を広げている。PBR=f(ROE、ESG、ESG2、ESG3…)として、非財務資本としてのESGがどのようにPBRに影響するかを重回帰分析で実証している。

・100社前後の企業で分析を進めており、11社が結果を開示している。それをみると、ESGの項目で正の相関が有意となっている。では、こうした相関関係が価値創造の因果にどのように結び付いているか。これを明らかにするには、さらなる分析が必要である。それがインパクト会計の導入であろう。

・自社のビジネスモデルが、いかに社会的インパクトを与えているか。その中で、自社の価値創造にどのくらい結び付いているか。そのメカニズムを追っていく。エーザイの統合報告書をみると、これを先進的に実施している。

・運用機関のガバナンスはどうか。三井住友トラストグループは、アジア最大級の運用資産(AUM)を誇る。これまでの10年でAUMは2倍の140兆円になったが、次の10年でさらに2倍以上にすることを目指している。

・CGでは2017年に指名委員会等設置会社に移行し、高倉社長のもとで、ありたい姿に魂を入れている。政策保有株は持たないと決め、顧客へのフィデューシャリー(信認)が第一で、株主はその次であるという運営方針をとっている。

・次世代の経営陣をいかに育てていくか。マテリアリティとスキルマトリックスは取締役会で議論し、執行役の育成に力を入れている。リスク管理委員会や利益相反管理委員会では、地政学リスク、AIリスク、運用会社の議決権行使の公正性などもチェックしている。社外取締役は、顧客の視点、投資家の視点で議論をしてくる。執行サイドは社内の論理でとかく物事をみようとする。そこに社外や有識者の視点を入れて、ガバナンスを効かせていく。

・投資家も多様であるが、1)長期アクティブ投資家はアドバイスが参考になり、2)インデックス投資家は議決権を通して意見を述べる、3)個人投資家はNISAなどで長く付き合うようにしたい、4)短期の投資家は資本の使い方に物申してくる。これらに対して、経営陣は選択的に時間を使って対話を進めている。

・では、ESGへの評価は今後どうなるのか。投資の世界では、ESGへの揺り戻しも見られる。CO2の削減、DE&Iの推進等について異論、見直しが起きている。EUの理念先行、米国のプラグマティズム、途上国からの不満に対して、日本はどうするのか。ESGは、国連が定めたSDGSに対する企業の評価基準である。サステナブルな経営を行うための視点であり、日本では着実に進められている。

・SDGSは、2015年に採択され、現在進行中であるが、2030年には次の目標が設定される予定である。ポストSDGSの議論として、Well-beingが注目されている。Well-beingとは、健康で幸福な状態をいう。個人も、組織も、社会も、Well-beingであることは望ましい。そこでSDGSの次のテーマにSWGS(Sustainable Well-being Goals)はどうかという話題が盛り上がっている。

・Well-beingを反映する企業経営では、ESGの中で人的資本がより強調され、EEESGが注目されるようになろう。トリプルESGでは、Ethics、Education、Entertainmentが重視されよう。こうした分野への投資が企業の価値創造を支援し、競争力の強化に結び付くことが重要である。

・これを推進するCGは経営の基盤であり、より個性をもって強調することが求められる。企業を評価する時には、①経営者の経営力、②事業の成長力、③組織のリスクマネジメント、④企業のサステナビリティ(トリプルESG)に必ず着目する。CGのよしあしが価値創造の仕組み作りに直接影響してくる。企業選別の評価軸として、CGに対する目利き力を高めながら投資を実践したい

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