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リーダーシップをいかに発揮するか

・三菱ケミカルグループのギルソン社長が退任する。2024年4月から副社長の筑本氏がCEOとしてリーダーシップを発揮する。石油化学事業の再編が難航しているので、同事業に精通する筑本氏が相応しいと判断された。

・指名委員会委員長を務める橋本社外取締役は、石化再編の遅れが課題であったと指摘した。21年12月に、23年12月までに他社とJV(合弁会社)を設立すると公表したが、実現の目途が立たなかった。また、ギルソン社長の経営改革は人材の流出にもつながった。どこに問題があったのか。

・昨年10月のアナリスト大会で、ギルソン氏の講演を聞いた。企業再生と人的資本が全体のテーマであった。ギルソン氏の論点は興味深い。

・ギルソン氏はベルギー育ち、仕事のキャリア地は欧州で40%、米国で40%、日本で20%。日本は2回目で、化学エンジニア出身である。成長企業の文化をどのように作っていくか。保守的なやり方の中で、どのように成長軌道に戻すか。文化や意識の問題はかなり難しい。

・日本経済はこの30年伸びていない。国民も豊かになっていない。日本はソフトパワーのよさは有しているが、ビジネスリーダーのリーダーシップが十分でない、と彼はみている。

・三菱ケミカルの課題として、1)内部成長が低い、2)ROICが5%レベルで、PBRが1.0倍を割っている、3)これまで3兆円の投資をして、有利子負債2兆円を有する、4)低収益のせいで、イノベーションが停滞し、2016年以降の新製品のローンチが少ない、5)デジタル基盤が時代遅れで、新基盤の構築を急ぐ必要がある、6)グループ企業が600社と多く、複雑である、とギルソン氏は認識した。

・なぜこんなに子会社・関連会社が多いのか。優秀な社員は多いのに、業績は不振である。何かがうまくいっていない。何が原因なのか。日本企業に共通する要因として、ギルソン氏はインアクション(不作為)をあげた。アクションに対してインアクション、つまり行動するのではなく、行動をとらない。分かっていても、やらないという行動をとる。

・やるべきことに気付き、それを認識する。でも、インアクション、いつまでも様子見しているだけとなる。人は合理的であるはず、でも何もしない。そこで、なにもしないことが合理的となる。やるとしてもゆっくりやる。

・こんなことが、なぜ起きるのか。アクションの原動力は、1)緊急性~危機ならできる、2)インセンティブ~これが強く働く、3)強いコンセンサス~リーダーが駆り立てれば動く、とみた。一方で、ノンアクションの何もやらない合理性は、1)危機感がない、2)インセンティブがない、3)コンセンサスが弱い、と生まれる。

・緊急事態への対応がマンネリ化してしまう。慣れてしまうと、緊急性が低下する。期待リターンが低下して、低収益でもいいかとなってしまう。セロ金利のもとで債務が拡大し、成長が止まってしまう。業績低迷の中で、R&Dも削減されてしまう、というサイクルに入った。

・このサイクルをストップさせるには痛みを伴う。この痛みを避けようとすると、不作為がおきる。痛みを伴う改革を実行すると、社内の文化が変わってしまう。これを許容して、実行するしかない。リーダーの役割である。

・そこで、成長志向の文化を作ろうとした。アクションをとるために、“Re-establishing a Growth Culture through Action”をテーマに掲げた。1)事実を共有して、危機を呼び起こし、目を覚ます、2)財務の制約、人事の制約を見直して、インセンティブを与える、3)初期の合意形成は無視して、リーダーが変革をリードする、こととした。

・これまでの「Kaiteki」では楽すぎる。もっとBravery(果敢)に、Persistence(あきらめないで完遂)するようにハードルを上げた。スペシャルティマテリアルにフォーカスし、ベストを目指す。中程度のまあまあは受け入れない。

・不作為のリーダーが停滞の要因である。現状の調和ではなく、アクティブ調和(Active Harmony)を図る。不作為の合理性を排除して、リーダーが行動する文化(action-oriented culture)を作ろうと提言した。ギルソン氏はそれを実践してきた。

・昨年10月にこう語ったが、同12月に3年でCEO交替が公表された。5年から7年やらなければ、事業ポートフォリオを組み替えて、成果を上げ、新しい組織文化の定着は図れないだろう。その前の交替となる。

・1)石化事業の業界再編を予定通りに実行できなかった、2)トップダウンのアクションに現場のリーダーがついていけなかった、ということであろうか。日本的にいえば、信長のようなリーダーシップで、事を急ぎ過ぎたのであろうか。何か残念である。

・サッカーの岡田元監督(今治、夢スポーツ代表取締役会長、日本サッカー協会副会長)は、チームマネジメントについて、次のような体験を語った。

・新しいサッカーチームを作りたい。自律した選手が育っていない。選手自らが判断して、動くようにしたい。そこでティーチングではなく、コーチングに徹した。スペインのサッカーは、16歳までに教えて、後は自由にする。武道の守破離の精神で守(ティーチング)、破(コーチング)、離(自由)で、チームの人材を創っていく。

・いつも人のせいにする文化が制約となる。これを覆すには、クラブのオーナーとなって長期的にチーム作りに取り組む必要がある。そこで株式の51%をもつことにした。心の豊かさをベースに、理念に沿った経営を実践すると決めた。どうやって人を成長させるか。当事者意識をもつには、まず自分事と考えられるように、対話によって持っていく。

・対話の基本は3つ、1)どうしたの、2)君はどうしたいの、3)私に手伝えることは、これを何度も聞いていく。

・会社経営は、サッカーゲームと同じである。フィロソフィーを創る。エンジョイせよ。私たちのチームである。勝つためにベストをつくせ。今できることに集中せよ。しゃがんでジャンプすることに心がけよ。存在を認めて、コミュニケーションをとる。

・ゲームを楽しむ、チームは選手のものである、と言っても、試合では、半分のチームが負ける。常に必ず1人1人を見ている。一体感は目標にしない。違いを認めると、逆に一体化してくる。共通の目標があれば、そこで結果がでると1つになれる。

・非日常の場面で自分をさらけ出すと、違いを知ることができる。そうすると、チームに自然とモラルができてくる。絶対に手を抜くな。勝負の神様は1ミリの細部に宿る。リーダーシップを発揮するには、考え抜いた上で、直感で決める。覚悟を持って、ありのままの自分をみせる。失敗の中から、次の楽しみが出てくる、と語った。

・なるほど、そうかもしれない。こうみると、三菱ケミカルグループの経営改革は、狙いは良くても、実現には距離があった。組織の中で、人々がどう動くのか。リーダーとの距離がいかに縮んで、社員が自分事としてビジネスを考えられるか。

・経営戦略と人財戦略の結びつきについて、突っ込んで理解しておく必要があろう。企業価値評価の要として、大いに役立てていきたい。

 

アセットビルディングに向けて

・カーボンニュートラル(CN)を目指すには、新しい技術開発とその設備やシステムを動かすための投資が必要である。これが有力な成長機会となる。社会的な善に貢献することで、自らも価値創造ができれば、これこそが最高のビジネスであろう。

・日本の貯蓄投資バランスをみると、政府は大幅な赤字であるが、民間は企業も家計も大幅な黒字である。貯蓄が投資に向けられ、それが成果を上げればリターンの分配が可能になる。企業が働く人々の報酬を上げれば家計は潤ってくる。

・もう1つのルートは、個人金融資産が現金預金から、株式、投資信託などのリスク資産に向かえば、そのリターンが直接個人(家計)に入ってくる。

・企業にとって投資機会はないのか。機械がないから、投資をせずに現預金を貯めているのか。投資にはリスクを伴う。リスクを回避して、ビジネスで勝負していないのか。そのような企業はいずれ衰退するので、早めに経営者を交替させる必要がある。

・個人は老後を心配し、お金を貯めるだけで使わなければ、経済はまわらない。貯めたお金がリターンを生むように投資すれば、それは好循環となって、国全体の成長にも寄与する。2100兆円の個人資産のリターンを年間+1.5%上げれば31.5兆円の金融所得が生まれる。名目GDP560兆円に対してのインパクトも大きい。

・こうした成長と分配の好循環を生むには、資産運用セクターの抜本改革が必須であるとの認識のもと、政府の政策が動いている、どうやって個人の預貯金と金融資産の投資にまわすのか。損をしたら身も蓋もない。そう思えば大きな動きにはならない。

・デフレからインフレに向かうと、預貯金の価値は目減りしていく。2つの課題がある。1つは、企業がしっかり儲けてくれるか。そうならが投資したくなる。もう1つは、金融機関が本当に信頼できるか。顧客本位の経営を実践し、親身に相談にのって、商品・サービスを提供してくれるなら、リターンに対して手数料(報酬)を支払うには当然である。

・では、日本を代表する5つの金融機関のトップはどう考えているのか。10月に日経のシンポジウムで講演とパネルディスカッションを聴いた。印象に残った点をいくつか取り上げてみたい。

・大和証券グループ本社の中田社長は、変化の条件が揃ってきたと強調した。1)バブル崩壊後のデフレがようやく終焉する、2)日本株の長期下方トレンドが変わるという認識が広まっている、3)顧客が望んでいる商品サービスを提供できるようになる、4)長期の運用に対するインセンティブが整ってきたからである。

・消費者物価はプラスに転じており、日銀のゼロ金利政策も変わりつつある。日経平均は4万円を目指すこともできそうである。企業業種が伸びること現実味が出てこよう。NISAやiDecoへの税制インセンティブが本格化する。

・三井住友フィナンシャルグループの太田社長(当時)は、円安とインフレが進行する中で、価格転嫁が進んでいる。企業業績は好調で、賃上げにも結び付いている。成長と分配が上手く回りそうである。世界景気はスローダウンするとしても腰は強い。日銀の金融政策も正常化してこよう。中小企業はどうか。サプライチェーンの中で、パートナー戦略が重要になっていると強調した。

・みずほフィナンシャルグループの木原社長は、金利がつく世界では経済が活性化してくる。運用商品の多様化も出てくると指摘した。グローバルサプライチェーンの中で、サステナビリティが問われている。インフレトレンドが続くのでマイナス金利は修正されよう。そのタイミングには注意を要するが、いずれ預貯金金利も動かすことになろうとみている。

・野村ホールディングスの奥田社長は、オールタナティブ商品はインフレに強いので、ここが多様性をもって広がってくるとみている。適切なプライシングを金利プラススプレッドできちんとみていく必要がある。日本でのオルタナのチャンスは大きいといえよう。

・三菱UFJフィナンシャルグループの亀澤社長は、欧米の金融緩和、日本の金融正常化はそのタイミングがポイントで、インフレの粘着性とその不連続性をよくみておく必要があると述べた。金利がついてくる中で、改めて金融機能の強化が求められている。

・資産運用アドバイスの高度化では、①リサーチ、②投資戦略、③商品戦略、④販売戦略の各エンジンを強化し、ウェルネスマネジメントのデジタルプラットフォーム作りに力を入れている、MUFJとモルガンスタンレーとの連携も効果的である。

・大和アセットマネジメントでは、オルタナティブ・ファンドとして、プライベート・クレジット・ファンドに投資する公募投信「ダイワ・ブラックストーン・プライベート・クレジット・ファンド」を国内で初めて提供している。

・また大和証券では、セキュリティトークン(ST)の販売で実績を上げている、ケネディクスの不動産を裏付けとして、公募不動産ST(ケネディクス・リアルティ・トークン)の募集でトップクラスである。STについては、不動産、再エネ、社債などに広がっていこう。

・SMBCグループでは、「幸せな成長:Fulfilled Growth」への貢献に向けて、資産形成を通じたマテリアリティ(重点課題)の解決に取り組む、1)環境(グリーンローン、SDGsボンド、移行金融)、2)DE&I、人権(人的資本経営推進、なでしこ推進向け融資)、3)貧困・格差(インパクトファンド、マイクロファイナンス)、4)少子高齢化(資産形成、資産継承)、5)日本の再成長(スタートアップ支援、ベンチャーデット、グロースファンド)などである。

・家計に対して、「Olive」を軸としたデジタルサービスで若年層、現役世代のエントリーバリア解消に力を入れている。SBIとの連携も効果を上げている。

・各社のPBRをみると、12月26日時点で、野村0.58倍、みずほ0.62倍、三井住友0.66倍、三菱UFJ0.78倍、大和0.90倍である。三井住友はROE6.7%、PER9.8倍、みずほはROE6.7%、PER9.3倍である。各社ともROR10% 、PER10%にもっていって、PBR1.0倍が達成できる。

・資産形成という軸からみた時に、それぞれ手を打っているが、収益性と成長性が十分でないとみられている。PBRが1.0倍を割っているということは、各社の新しいビジネスモデルが、それを構成する人的資産、組織資産などでまだ、リソース不足があるので、いかに戦略的に構築していくか。

・グローバルに戦う基盤という点との格差も大きい。流れはフォローである。いかに差異化、特化戦略で個性を発揮するか。類似のサービスの中の差別化戦略に期待したい。

 

イノベーションとリスク

・ポストマンのCEOアビフナ・アシュタナ氏は、APIのソフト開発でインドから米国に渡り、急成長をみせている未上場ユニコーンの1社である。API(Application Programming Interface)は、ソフトウェア、プログラム、webサービスをつなぐソフトウェアである。

・2012年にサイドビジネスとしてスタートし、2014年に会社を設立した。APIはソフトをつなぐ。ポストマンを使うと、APIを早く効率的に作れる。従来は個別につなぐため手間がかかったが、これをスピーディに簡単に作成できる。

・すでに3000万人近いユーザーがいる。APIのソフト開発者に依存するのではなく、各々のソフト開発者が自分でAPIを作ることができる。ナレッジワーカーなら誰でもできるようにもっていくという流れである。

・APIはいろいろなインターフェースをつないでいく。クラウド、スマホ、AIをAPIでつなぐ。コーディングをやったことのない人が、自分でソフトを作れるようになる。APIの開発が手間なので、簡単にできるシステムを開発した。これを発売したら、大ヒットした。

・スタートアップに当たっては、1)まず役立つかを追求する。2)次に、いい時もわるい時も、当初の確固たる信念を貫く、3)先がみえず、時間がかかることを覚悟する。3人で会社をスタートしたが、やる気はキープできた、とアシュタナ氏は語る。現在は20カ国で700人が働いている。

・リーダーシップのあり方として、1)好奇心の中から文化的価値を求め、2)真の解決策を追求し、3)制約のある中で、チームとして大きくなることを目指すべし、という。その上で、ユニコーンになりたいなら、①最初からグローバル化を考えて、②失敗恐れずに挑戦し、③常に長期的な視野を持つこと、を強調した。

・中国のバッテリーメーカー CATLの潘健董事(チャンパン取締役)は、今後のバッテリーテックに関する戦略を語った。CATLは2011年設立で、EV用バッテリーであっという間にグローバルリーダーの1社となった。世界シェアの36%をとっている。

・バッテリー(BT)は、1)再生エネルギーにとって重要であり、2)EV用から船舶などに広がり、3)BT自体が技術的に多様化していく。脱炭素(CN)にとっても欠くことのできない製品である。BTは、エネルギー貯蔵に必須である。

・BTのコストは年々下がっており、チャージ時間も大幅に短くなっている。エネルギー密度は、この10年で180mhr/gから300mhr/gに上がっており、次の5年で500mhr/g以上に高まるとみられる。用途によっては、300~500mhr/gで十分という領域も多い。

・さまざまなBTの開発が進んでいる。レアメタルを使わない方向が基本である。1)全固体電池、2)リチウムからナトリウムイオンへのシフト、3)M3P、4)コンデンストバッテリーなど、将来への開発競争は活発である。いずれ航空機もBTで飛ぶようになるだろう。

・BTの充電効率も高まっている。短時間で充電して、長時間保つなら実用性は一段と高まろう。こうした開発においても、CATLは世界をリードしようといている。国内需要が大きいので、製品開発と市場開拓のサイクルをうまくまわすことができる。そうしたBT企業とどのように対峙していくのか。企業間競争は容易でない。

・メキシコのベンチャー企業が、サボテンを使ってレザーを開発した。植物原料の合成レザー(ビーガンレザー)である。ファッションのサステナビリティにおいて、アニマルフリーは重要なテーマである。動物由来の原料を使わずに、植物系の素材を利用しようという動きの1つである。

・アドリアーノ・ディ・マルティ社は、二人の創業者がCEOとなっている。社名も二人の名前に由来する。もともと、ファッションや自動車の革に関わっていたが、環境に配慮した素材に目を向けるうちに、サボテンに注目した。

・配合を工夫していくと利用可能性が高まった。サボテンの繊維を利用する。水分が少ない中で育つので、繊維も強い。サボテンは量産が可能なので、スケールを追いかけることもできる。今は、用途開発(ハンドバックなど)をしながら、ビーガンレザーの認知度を高め、ブランド化を図ろうとしている。

・二人は台湾で出会って、メキシコで生産し、イタリアで商品化を進めている、一定の需要があり、アジアに輸出している。素材開発がカギで、いかに高級感を出していくか。手触りと長持ちを求めている。企業は急成長を開始している。

・サントリーホールディングスの新浪社長は、ゲームチェンジャーのテクノのジーについて、常に目を光らせている。実際、ChatGPTについて、20代~30代のエバンジェリスト(ITの専門伝道師)に活用モデルを考えてもらうと同時に、50代にも全員に研修を受けさせている。

・50代のもっているノウハウを、質問力を通して、AIに蓄積していく。インターフェースは簡単なので、50代でも使いこなせる。これによって、アナログのナレッジをデジタルに変えていく。

・日本の75歳は世界でみれば65歳、日本は75歳まで働くことが十分できる、と新浪社長はみている。10年若いのだから、将来があると思って働いてもらうことが大事である。

・経営トップのリーダーは、技術をどう磨いていくのか。CEOは興味を持って自ら動き、理解を深めて、活かすことを実行していく。CVC、大学、アドバイザーはCEOが接点となって、ネットワークを広げていく。

・サントリーは4割の社員が中途入社である。多様な人材がレーダーとして新しい動きを監視していく。技術へのアクセス、その投資には金がかかる。よって、粗利率を上げて稼ぐ必要がある。ビジネスのマージンを高めることが必須である。

・とりわけ、環境を中心とするサステナビリティには、新しい技術が出てくる。一方で、新しい技術を取り入れても、すぐに陳腐化するリスクもある。ペットボトルのリサイクルを、いかにサーキュラーエコノミーにもっていくか。木材由来の材料にかえて、2030年には石油由来をやめる方針である。

・NFTやメタバースも、響や山崎という商品を超えて、顧客によい時間を提供するという視点からみていくという。新しいウィスキーがChatGPTですぐにできるかもしれない。新規参入は、異業種からも入ってくるかもしれない。これにたえず備えておくことが大事であると強調した。

・世界的にみたリスクは、人権のリスクにあると新浪氏は語る。地政学的リスクが台湾に波及した時、台湾の社員、上海の社員はどうするのか。もっとネットワークを広げて、プランAではない、プランBを作っておく必要がある。

・中国で一度は撤退したビールをもう一度やってみたいという。つまり、民間の関係でつながりを広げていくことを重視している。それでも、反スパイ法は脅威であると懸念する。

・米国、アセアン、インドとはインサイダー化してつき合っていく。トップクラスのインサイドに入って情報をとり、リスクをみていく。東京にいると重要情報の入手が十分でないという。

・日本のCEOが4~6年で交替するのは短い。10年間、CEOがやれるくらいの人材が求められる。まずは給料を上げて、いい人材を取り、その人材を活かして生産性を上げていく。粗利率を高めて、もっと稼ぐ仕組みを強化する。、日本でも人材は流動化していく。“いい人取り”の経営が問われよう。

・日本の収益性は低い。サントリーも世界で儲けるだけでなく、日本でもっと利益をあげるべし、と強調した。そのための施策はいかなるものか。テクノロジーを活かした次のビジネスモデルに注目したい。

 

 

会社が変わるには

・昨年11月、日経の世界経営者会議に参加した。毎年経営者の話を聞いているが、投資の参考になることが多い。いくつかを取り上げてみたい。

 ・モルガンスタンレーのJ・ゴーマンCEO(当時)は、2014年にCEOとなり、10年を経て、2023年末に退任した。オーストラリア出身の弁護士で、マッキンゼー、メリルリンチで働き、2006年にモルガンスタンレーに入り、2008年のリーマンショックに直面した。

 ・この時、三菱UFJ銀行から90億ドルの出資を受け、危機を乗り切った。以来、三菱UFJ銀行とは良好な関係を築いてきた。

 CEOとして10年、ビジネスモデルを大きく変革し、時価総額でGS(ゴールドマンサックス)を上回っている。IB(インベストメントバンキング)とトレーディングでは、変動リスクが大きいということで、ウェルスマネジメント分野の拡大を図った。

 ・富裕層向けAM(アセットマネジメント)は、船の底荷のようなもので、経営に安定をもたらすが、船が重くなるのでスピードは出ない。全体として、スピードと安定のバランスを図った。

 ・変革には、トップがリーダーシップを発揮し、企業文化を育てることが求められる。ウォール街でトップに立つ資質として、1)自らに足らないところはチームで、2)自信と信念を持って人がついてくるように、3)しぶとくやり抜くレジリエンスを発揮し、4)精神的、身体的に安定を保ち、5)戦略をしっかり立て、よいコミュニケーターであること、が必須であると語った。

 ・自らの後継者(サクセッサー)は、3人中からえらばれた。米国企業では珍しく、トップ争いに外れた2名も会社に残って、新しいCEOを支えることになった。

 ・三菱UFJ銀行とのアライアンスは、上手くいっている。三菱UFJサイドの歴代のトップ4名とは十分なコミュニケーションをとっており、半年ごとの運営委員会で議論を続けてきた。

 ・ゴーマン会長の見立てによると、1)米国経済はソフトランディングできる。2)米中のデカップリングは一時的で、相互依存の中で人々は生きている。3)しかし、ロシア、イスラエル、中南米は複雑で、不安がつきまとう。4)日本は30年ほど苦境に立ってきたが、よい方向にある。その中で、人口を増やすには、①子どもを増やすか、②移民を入れることである。これができるか、と指摘した。

 ・シュナイダーエレクトリックのP.J.トリコア会長は、デジタルとエネルギーを軸に、サステナビリティ経営を実践してきた。まず、サステナビリティを経営の根幹に置いた。戦略とサステナビリティを統一して、それを文化にするまで実行した。グローバルコンパクトを共通語として、すべてのエコシステムを創ってきた。

 ・世界200の工場、100のディストリビュータセンターで、デジタル化を進めた。まずは適切なパートナーを選んだ。自ら開発するのではなく、今あるシステムを使った。IoTに今ある装置を使い、クラウド化した。すべてのものを繋ぐ。その上で、データをとる。データには意味付をしておく。このリファレンスで、アセットとしての価値が出てくる。すべてをオープンにしてつないでいった。

 ・これによって、IoT領域で、最もインパクトのある企業の1社となった。GXDXを実践している。アジアと中心に市場を広げている。サステナブル経営で企業価値の向上を図っている代表企業として注目できる。

 ・企業を変革する人材はどう育つか。会社が変わるには、人が変わり、組織が変わり、企業文化にまで及ぶ必要がある。エグゼクティブからミドルまで、そのマネジメント人材は、教育で変わるのか。一定の基礎を学ぶ必要はある。それを実践して、体験を積んでいく必要もある。自らの創意工夫も求められる。

 ・スキルはトレーニングできる。ソリューションはコンサルから出てくるかもしれない。インセンティブシステムは、やる気を引き出すことにつながる。目標達成に向けて、自らをどう変えていくのか。従来の自分のままでは、悩みは尽きない。抵抗感をかかえたままでは、行動変容までいかないことも多い。

 ・新しいアイデア、意味付けの見直し、従来とは違った気付きなど、自分を変えていくには、コーチについてコーチングを受けるとよい。経営者は壁に向かって話しているともいえる。エグゼクティブは本当に悩んでいることを、周りには話しにくい。オフタイムの飲み会でストレスを発散しているだけでは、次につながらない。

 ・経営層にコーチングが広まっている。2つの側面があろう。1つは、コーチングのノウハウをよく知ることによって、自分の言動に新しい規律をもたらすことができる。もう1つは、実際にコーチについてもらうことで、対話を通して、自分を発見し、納得していければ、その効果は大きい。

 ・コーチ・エイの鈴木社長は、コーチングによる組織改革をサービスとして提供している。米国の企業では7割の経営者が、エグゼクティブコーチングを取り入れているという。コーチとの対話を通して、自分をバージョンアップしていく。

 ・会社のさまざまなレベルでコーチングが実施されると、組織風土が一気に変わると強調する。それならばやってみる価値はあろう。筆者も会社勤めの頃、コーチングの研修に参加して、大いに触発された。

 ・このコーチングのノウハウをAI化したAIコーチングも始まっている。コストが大幅に安くなるので、1万人の社員に1度に導入できるという。AIコーチングで、毎日会話していくと、人の意識は変わってくる。中長期の視点も育ってくるいう。こうなればおもしろい。

 ・企業を変えるのは、①リーダーである、②ガバナンス(社外)である、③組織である、④社員のインセンティブと教育であるなど、さまざまな視点がありうる。その中で、共有、共感を通して、11人がレベルアップするにはコーチングも有効であろう。

 ・実は、投資家と企業との対話も、双方にとってのコーチングという側面があろう。緊張感のある対話を通して、情報のフィードバックを活かし、互いの行動変容に結び付けていく。信頼感が醸成され、企業価値の向上が図れれば、その効果はwinwinである。企業変革の要は何か。これを経営者と議論して、それを実践する会社に投資したい。

 

PBRのもう1つの意味

・財務分析では、主要項目を分解して理解を深めていく。例えば、ROE = 売上高利益率×総資本回転率×財務レバレッジと分ける。最近では、PBR=ROE×PERもよく使われている。

・日本企業のROEが低い理由は、売上高利益率の低さにある。PBRが1.0倍を割っているのも、ROEが低いからである、という指摘もよく知られている。

・ただ、この手の分解は、注意してみていく必要がある。数式で分けてみるということと、その意味を理解することは異なる。人がものごとを判断する時、その要因をきちんと分けてみることは重要である。一方で、分解しても要因が特定できないこともある。

・PBR=ROE×PERという算式は、ROE=PBR/PERとも表記できる。ROEを改善するには、PERを低めに抑えた方がよいといえるだろうか。ほとんど無意味といえよう。

・財務数値の分解は、そもそも要因が互いに独立ではないことが多いので、理解しやすいからといって、短絡的に結び付けてしまわない方がよい。

・ROE 8.0%×PER 10倍=PBR 0.8倍という企業にとって、収益性を高めることと、成長性を高めることは、互いに独立ではなく、かなり結び付いていることが多い。

・PBR 0.8倍は、どのように解釈すればよいのか。バランスシートの自己資本(簿価)に対して株価(時価)がそれを下回っている。ということは、帳簿上の資産が実態として目減りしているともいえる。

・つまり、資産の一部が、企業価値を生まない不良資産や不稼働資産になっているかもしれない。では、その不良資産を除けば、PBRは1.0倍に戻すことができるのか。価値を生まない不良資産とは、実際何なのか。ここを知りたい。

・売れもしない商品の在庫が貯まり、それを作る設備が余っているのか。うまくいくと思って買収した企業ののれんが実は無駄になっているのか。安全のために株や現金をもっているが、それが役立っていないのか。とすれば、それらを再構築すればよい。

・ROE 15%×PER 20倍=PBR 3.0倍という時の3倍は何を意味するのか。純資産の時価が簿価の3倍あるので、総資産に純資産の2倍を足したものが、時価の資産ということになる。つまり、見えない資産が純資産の2倍あると評価されている。

・この見えない資産とは何か。商品やサービスがもっと売れるはず、のれんがどんどん価値を生むはず、ということを意味しているともいえる。

・さらに言えば、新たな企業価値を生み出す仕組みのうち、バランスシートに載ってないものを、市場が評価しているともいえる。それは、人的資本、知的資本、組織資本などを反映したものである。

・PBR 0.8倍は、純資産の20%に相当する不稼働資産がある。PBR 3.0倍は純資産の2倍に相当する優良な見えない資産を有している。

・PBR 0.8倍は、収益性が低く、成長性も今1つである。PBR 3.0倍は、収益性が高く、成長性も高く評価されている、という解釈ができよう。

・何がポイントなのか。PBR=ROE×PERは1つの算式であるが、それをそのまま因果関係と結び付けないことである。企業の価値創造の仕組みがビジネスモデル(BM)である。BMを3つの側面からみる。

・①BMは今いくらのROEを生み出しているのか。②このBMの成長性はどのくらいあるとみられているのか。そして、③BMの時価は簿価に対して、どのように評価されているのか。

・その上で、投資家が知りたいのは将来である。今のBMをBM1とすれば、将来の目指すBMをBM2として、それをどのように実現していくのか。その戦略を知りたい。それを支える経営力は十分か。成長をリードするイノベーションに取り組んでいるか。

・突然ドスンとくることがないように、リスクマネジメントはできているか。サステナビリティのベースとなるESGはしっかり運営されているか。こうしたBM2の評価がPBRに現れてくる。

・まだ十分評価されていないとすれば、BM2とそれに向けた戦略を大いに語ってほしい。PBRはROE×PERの結果ではなく、独立した1つの財務指標として、その意味付けを充実してほしい。

・ここが本物でないと、企業価値の向上もおぼつかないものとなろう。ここを見極めて、PBRの上がる企業に投資したい。