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監査価値を投資に活かすには

   2022.04.30 (土) 2:12 PM

・上場企業は、有価証券報告書に記載する財務情報について、必ず会計監査法人の監査を受けている。財務情報が正しいという前提で、投資家はその情報を利用する。

・財務情報に不正や過誤があったならば、企業に対する信頼は著しく低下する。何らかの意図を持った粉飾決算が作られているとすれば、それは尋常でない。

・監査法人はそれを見抜けるか。どんな不正も必ず見抜くことができれば、企業の執行サイドは不正をやらないであろう。企業価値を棄損し、自らの人生を棒に振ってしまうからである。

・ところが、解釈の違いは発生しうる。財務データは、結果としての過去の情報であるが、執行サイドも投資家も、それを将来予測に用いていく。収益の認識や見積りの方策、会計手続きの解釈によって、財務データに違いが出てくる。

・この違いが時として、経営判断や投資判断に大きな影響を与える。そこで投資家からみると、監査プロセスにおいて、1)何らかの不正はなかったか、2)財務データの見積りにおいて判断の甘さはどこにあったのか、3)それは将来の企業価値にどのように影響するのか、を知りたい。

・監査法人トーマツから、デジタル監査の方向性について、話を聴く機会があった。既存の監査領域において、デジタルの活用でリアルタイムな監査が進めば、不正の抑制に対して効果的である。新たな保証の領域では、非財務情報を含めた情報の真正性の担保が求められる。

・デジタル監査の特長は、これまで人手による経験に頼っていた監査プロセスを、AIなどの活用によって確認作業の領域を広げ、スピードを上げ、異常点をあぶり出して、素早く可視化することにある。こうした効率化で、監査人のプロは、人でしかできない付加価値を生み出すタスクに集中できよう。

・監査法人は、新しい監査プラットフォームの構築に力を入れている。2030年に向けて、言語と時間を超えようとしている。

・①リアルタイムな全量解析による異常点識別、②自動翻訳を活かしたグローバルコミュニケーションの高度化、③監査アシストAIの開発と実用化、④デジタルと人の協働による経営判断に資する洞察(インサイト)の提供、を目指している。まずは、AI不正検知モデルの実用化が始まっている。

・企業経営に役立つ監査価値が生みだされるのであれば、執行サイドも監査の役割を一段と高く評価しよう。とかく監査報酬の金額の多寡、監査内容に関する認識の違いに伴う対立、にばかり目が行きがちである。

・投資家は当然、監査品質を監査価値に変えていくプロセスを少しでも共有したいと考えている。PWCあらた監査法人の話を聴く機会があった。

・PWCの品質管理本部では、その評価プロセスにおいて、15の目標、206のリスク項目、132のアクティビティ、350のキーコントロール事項を揚げて、その活動を行っている。

・1)監査基準のクリアに向けたコンプライアンス、2)監査との関連性を広げていく実効性、3)新たな付加価値に結び付けるバリュークリエーション、という3段階で、PDCAを回している。

・この中で、いかに、①差別化された品質向上を図るか、②魅力品質を創り出していくか、③先を読んだ取り組みを実践していくか、に力を入れている。

・投資家としては、監査法人の力量、チームの力量、ひいてはパートナー個人の力量に差があることを十分踏まえて、付加価値をみていく必要がある。

・個別企業において、どんな監査項目が重要であったかという内容は、KAM(監査上の主要な検討事項)によって知ることができる。

・2020年度から義務付けられたので、2021年6月以降に発行された有価証券報告書には、その内容が記載されている。日本証券アナリスト協会では、「証券アナリストに役立つKAMの好事例集」(2022年2月)を公表した。その中で、優良KAMとして23社の事例をあげている。

・具体的な企業として、スペースバリューHD(PWC)、RIZAPグループ(太陽)、山喜(あずさ)、大和工業(PWC)、CKD(トーマツ)、小倉クラッチ(あずさ)、東芝(PWC)、明電舎(あずさ)、シャープ(PWC)、名村造船(トーマツ)、バンダイナムコHD(あずさ)、ニフコ(あずさ)、丸紅(EY)、AOKI HD(PWC)、三井住友トラストHD(あずさ)、日本証券金融(東陽)、第一生命HD(あずさ)、東京海上(PWC)、商船三井(あずさ)、日本航空(あずさ)、四国電力(トーマツ)、カプコン(あずさ)、ソフトバンクグループ(トーマツ)が紹介されている。

・アナリスト協会では、KAMの利用価値について、1)監査品質を通して一定の判断材料が得られ、2)会社のリスクがよく理解でき、3)会計上の見積り等について、重要な参考意見が得られること、をあげている。とりわけ記載が具体的で、会社公表情報とKAMの内容が客観的、独立的でありながら、しっかり連携していることが重要であるとみている。

・筆者の場合、3月期決算の会社でみると、6月に有報が出されるので、1Qの決算インタビューを行う8月に、このKAMについて会社サイドと詳しく議論する。

・ほとんどの場合さほど問題はないが、1~2割のケースで経営上の重要課題として、将来に強く結びついていることがある。当然、その時は重要なテーマとなる。

・監査法人がどのような観点と手続きでKAMを実施したかは、大いに参考になる。これこそが監査価値の重要な要素である。今後ともKAMには大いに注目し活用していきたい。

 

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