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2つのIR

・企業を評価する時の一番のポイントは何か。昔も今も圧倒的に経営者の力量である。経営トップのビジョン、リーダーシップ、戦略の構築と実行力が問われる。

・投資家やアナリストは、何よりも経営者をみる。経営者の話を聴いて、有言実行の度合いを評価する。5年経って、実績がすべて出てから投資したのでは遅い。今、経営陣のパフォーマンスをどう見極めるか。これが鍵だが、かなり難しい。

・創業者が現役トップである時は、すでに実績も出ているので、評価しやすい。2代目、3代目となると、創業者に比べて見劣りすることが多い。しかし、創業者を超えて、企業を脱皮させていく後継者もいるので、その時は心強い。

・サラリーマン経営者になると、まずはトップになる前までの実績をみることになる。どうしてトップに選ばれたのか。その選任理由からトップとしての潜在能力を評価したいが、なかなか分かりにくい。

・そこで、もっと組織の中身をみる必要がある。CEOの他に、CFOやCHROなど、CXOにインタビューして、その戦略を聞きたくなる。同時に各事業部門のトップに、オペレーションの実態を聞きたい。

・国内外の拠点に行って、現地を見学しながら話を聞きたい。研究開発拠点、生産拠点、販売拠点、その会社をとりまくサプライチェーンにも広げて訪問したい。

・多様な情報収集を通して、企業の実態を理解したいという狙いと同時に、それぞれの場面で出会う人材の資質や役割から、人的資本や組織資本のクオリティを知ることも重要な調査である。

・人的資本のリーダーシップはいかに測るのか。後継者人材の測り方はどうするのか。人的資本に関する情報開示のガイドラインがISO(国際標準化機構)から出されている。ダイバーシティ、スキル、組織文化まで幅広い。

・かつての内部育成、コツコツ型のピラミッド組織では、企業の力は十分発揮されない。マーケットをグローバルに捉えて、国内においてもグローバルに通用する仕組みに変革しないと、人は集まってこない。

・専門家としての深掘り人材の育成と採用、若いうちから経営人材への抜擢では、プロをマネージしていくプロデューサーのようなマネジメント能力が問われる。見い出して獲得、トレーニングして育成、プールして保持、これらを確実に実行するコーチングとメンタリングが必須であると、岩本教授(慶大)は指摘する。

・人的資本をいかに定量化するのか。経歴を測るのか。仕事の実績を測るのか。今持っている能力を測るのか。将来の潜在能力を測るのか。これらを全社的に共通のデータベースで揃えたいという思いは、どの企業にもあろう。特定の上司の定性評価だけでうまくいくはずがない。

・能力を上げるには、スキルを習得する必要がある。現場でのOJTで十分なのか。会社での内部研修、外部での特別研修、それともスカウト人材の活用なのか。能力が低くては、それなりの貢献に留まる。能力を発揮するには、ふさわしい場が必要で、チャンスがなければ伸びない。

・コンピテンシー(能力)、スキル(技量)、パフォーマンス(実績)を3軸で評価して、高付加価値に結び付くかどうかをみていく。企業内でいかに実践しているか。開示をみて、それが価値向上に効いているか。その上で、人的資本の能力がどのレベルにあるかを評価していく。

・「人的資本理論の実証化研究会」(福原座長)では、2つの軸からレーティングしている。1つは、人的資本の投資対象を明示しているか。もう1つは、人的資本投資の評価指標を定めているか。各々5段階評価で点数化し、企業間の比較をしながら、人的資本投資のレベル向上を目指している。

・人的資本投資でROICやROEは上がるのか。その因果関係はどのようなフローで実証化されるのか。スキルアップで本当の実態が分かるのか。まだ不透明なところが多い。

・人的資本について、統合報告(Integrated Reporting)での開示が始まっている。投資家とのミーティングでも、IR(Investors Relations)部門は人的資本に関する対話に力を入れ始めた。

・非財務資本こそが、企業のサステナビリティのコアであり、ESGの充実が問われている。一方で、ESGの実践がどのように財務数値に結び付いてくるのか。このプロセスをビジネスモデルで示さなければ、企業価値向上には結び付かない。

・ここがみえなければ、投資家はその企業を高く評価しない。評価されないなら、一生懸命やる必要はないと考える企業も続出しよう。これでは悪循環である。

・好循環に持ち込むには、投資家サイドがESGインテグレーションの評価法を精緻化して、企業評価に実践的に用いることである。アクティブ投資家が強い対話を求めていくことである。

・企業サイドは統合報告(IR)を充実させ、IR(投資家との対話)を一段と充実させることである。2つのIRのもう一段の充実を図ってほしい。その上で、価値向上が実感できる企業に投資したい。

DE&Iを稼ぐ力に

・DE&I(多様性、公平性、包摂性)を企業において、どう実現していくのか。まだ至る所に昭和の匂いが残っている。経営者の意識改革は十分とはいえない。

・社会の規範を変えていくには、制度の変革とともに、アンコンシャスバイアス(無意識の差別)を解消することであると、萩原なつ子氏(独立行政法人国立女性教育会館理事長)は指摘する。

・人には違いがある。この違いを無意識に差別して、格差を作っているとすれば、それはフェアでない。個性は尊重されてよい。多様であることがベネフィットを生むと実感できるか。何らかの組織に属して、そこで働くことに幸せを感じることができれば、well-beingは良好となる。

・萩原氏は、個人的事情をハンディキャップにしないで、きちんと参画を認めていく。どこかにみえない特権を作っていないか、をチェックする必要があると強調する。

・例えば、全員に同じ自転車を提供することが、平等なのか。そうではなく、個々の事情に合う自転車を提供することが、本来の平等である。何が同じ条件なのか。合理的に配慮して、個々に寄り添って、一緒に進めるようにする。

・こうなれば、DE&Iからイノベーションが生まれるとみている。実際、ジェンダーイノベーションでは、多様性に対応することで新しい商品・サービスが売れていく。

・無意識に思い込み、うっかり刷り込まれていくバイアス(偏見)には、よほど注意する必要がある。一方的な決めつけや、ジェンダーによって判断を変えるようなダブルスタンダードの使用などに気をつけるべきである。

・1989年は昭和64年であり、平成1年である。35歳以下の平成、令和世代に合った新しいDE&Iが求められており、それを実践する企業に魅力があろう。

・女性の活用、参画にとって何が課題なのか。CGNW(コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)の富永執行役は、女性の社外取締役にアンケートを実施し、48名(90社)から回答を得た。その分析から印象に残ったことをいくつかとりあげてみたい。

・企業では、女性社外取締役を増やしたいと思っている。誰がどのように声をかけるのか。選任プロセスの独立性が問われる。これまでの経験と実績を踏まえて、ガバナンス上十分な貢献ができるのか。社外取締役としての勉強がかなり必要となる。その機会はあるので、活用すべきである。

・会社への理解を深め、社外取締役の実効性を高めるには、経営陣との少人数での意見交換会の実施や、社外取締役だけのコミュニケーションの活用が効果的である。DE&Iは、まさに経営トップの姿勢に依存する。

・執行サイドは、耳の痛い指摘にどう対応するのか。リスペクトの姿勢が問われる。育児や介護への男性経営陣の姿勢はどうか。経営経験がある社外取締役といっても、勉強不足が目立つこともある。一方で、忖度する社外取締役もいて、それでは本来の役割が果たせない。

・社外取締役として、2社以上を兼職していると比較ができて効果的である。一方で、社数が増えると、スケジューリングや準備対応が課題となる。4社以上にはかなり無理があるのではないか。

・執行役員との面談は理解を深める上で役立つ。しがらみのなさを活かして、忖度のない問いで、取締役会を活性化させることができる。しかし、意見が単にスルーされてしまうこともあり、経営者の姿勢が問われる。

・社内昇進の女性取締役はどうしたら増えるのか。まずは経営トップの意識づけが重要で、社外取締役としては常に2年以上先を考えて議論に関わっていく。

・投資家は、社外取締役の役割を株主のかわりとみている。まだ、投資家との直接対話の機会は少ないが、そういう場面では自分の言葉で率直に語っていく。アクティビストの対話に当たっては、こちらからもどんどん質問していくことが相互理解に不可欠である。

・社外取締役の中には、自分がボスになりたい人がいる。こういうマウントとりはよくない。その役割を知るには、やはり研修が必要である。女性社外取締役は複数になることで、やり易さが向上しよう。

・筆者の経験でも、女性取締役がいる会社は、1)議論が活発になり、視点が広がり、多様性を意識した発言が増えてくる。よって、2)女性取締役がガバナンスの向上に貢献するのは間違いない。ひいては、3)社外取締役が会社のパフォーマンス向上に寄与すると思っている。

・では、稼ぐ力はどのように高めるのか。昨年、日本取締役協会のウインターセミナーに参加した。そこでの議論から感じたことをとりあげたい。

・ガバナンスはフレームだけを作っても、実効性が上がらない。すでに10年近く改革をやってきているが、未だに十分でない。この30年デフレ経済の中で、日本企業の経営は世界に通用しないものとなってしまった。

・デフレ経済を脱するプロセスにあって、いよいよ本気で経営改革ができる局面を迎えている。富山会長(取協)は、常に原理原則に則った経営に徹すべしと強調する。甘えは許されない。できない、難しいというな。それなら経営者は交替である。ここがガバナンスの要である。

・マーケットはグローバルに、人手不足時代こそポートフォリオの入れ替えを、ガバナンス改革は手段であって、目的はもっと稼ぐことである。アクティビストは健全な野党として改革を追ってくる。受けて立って、違いを作っていく。コンプライできないなら、堂々とエクスプレインすればよい。企業の独自性ことが競争の差別化を生む。まさにその通りであろう。

・オリンパスの竹内会長は、オリンパスの改革を一気に進めた。自らの方針に合うので、アクティビストも社外取締役に入れた。ガバナンスは、会社をよくするためにある。企業価値を上げることだけに集中して戦略を実行した。

・オリンパスは、世界で通用するグローバルメドテック(医療機器)メーカーになると決めた。3年で営業利益率を10%から20%に上げた。自らのCEOの在任期間は短かったが、企業の発展にはステージがある。次のステージにむけては、それに合ったトップが必要である。これも当然の決断で、指名委員会がそのように判断した。

・ガバナンスの要として、DE&Iの実践がある。これは有力な方策である。しかし、本質はこれで稼ぐ力が高まることにある。企業価値の向上にどう結びつくか。その実効性をみせ、パフォーマンスで実証することである。引き続きここを問うて、企業の選別に力をいれていきたい。

 

健康一番のワークライフバランスとは

・昨年、健康経営に関する2つのフォーラムを視聴した。筆者の今の生活は健康一番である。若い時は仕事一番であったが、ある時から家庭一番に変えた。そうしたら、仕事もできるようになった。今や健康一番をベースに仕事もやっている。

・健康経営がなぜ注目されているのか。人口減少社会で高齢化が進み、医療費の増大が国民への福祉と同時に、財政的負担となっている。国民には健康でいつまでも働いてもらいたい。企業も社員の健康を確保できなければ、価値創造が十分できない。

・人手不足時代である。社員の健康に十分配慮して働き甲斐のある会社に人材は集まる。生産性を高めるにも、健康な社員に思い切り働いてほしい。

・健康は3つの側面からみていく必要がある。①社会、②身体、③精神の面で、人々の健康は大事にされているか。社会は働き方を支える仕組みである。身体的な病気や精神的な病気になっては、十分な力を発揮できず、働くことも難しくなる。未病段階で早めに対応する仕組みが企業に求められる。

・ガミガミ言われて、嫌々やる仕事がうまくいくはずがない。自分で納得してポジティブに頑張りたくなれば、苦労があっても乗り越えられる。

・働くインセンティブ、ワークモチベーションをどのように作りだしていくかが経営のカギである。健康経営は広く整えられる必要があり、やりがいからみたワーク・エンゲージメント、さらにはウェルビーイングへ結び付いていく。

・人を使い倒すようなブラック企業では働きたくない。法的にも厳しく律する必要がある。社員がきびきび働いている会社は、訪問して見学してしても気持ちがよい。社員の働き方は企業価値に直結していくので、投資家にとっても重大な指標となる。

・従業員にとって、高賃金で、知的で、多様な働き方を長期で保証してもらえるなら、こんなにいいことはない。一方で、低賃金で、画一的で、単純な仕事を短期でしか勤められないとすれば、それは苦しい働き方となろう。

・ここに格差が生まれてくる。いわゆる、できる人材とそうでない人材では差が広がっていこう。企業からみると、できる人材だけほしいが、そうはいかない。人事評価で、できる人材だけを優遇しても会社はまわらない。

・差があるとしても、評価の低い人材の底上げをいかに図るか。カルチャーの中で、育成しつつ、そうした人材もレベルアップさせていく。その上で、適材適所を進めている会社の方が伸びそうである。

・ウェルビーイングとは、幸せに通じる生活満足度としての良さを意味する。ダイヤ精機の諏訪社長は、先代(父)の跡を継いだ後、会社を立て直す中で社員との対話を通して、価値観の共有を図ってきた。

・自らカウンセラーの資格をとって、社員と交換日記を続けた。話す時に、正面に立たないことにした。ほめることは悪いことではないが、やはり上から目線である。それよりも、ありがとうという感謝の気持ちの方が、同じ目線にあり、社員とつながることができるという。

・人は、にこにこ顔が好きである。楽しいから笑うとい面と、笑うから楽しくなるという面もある。この方が、影響は大きい。笑顔でストレスを発散することができる。1対1の面談では、社員と悩みを共有していく。自ら常に夢を語って、その上で目標を設定していく。諏訪社長は、女性経営者としてユニークな経営を実践している。

・東大の池谷教授(薬学)は、かつて研究室では、叱るばかりでほめることをしなかったという。ある時、笑う練習を始めた。しかめっ面は顔の筋肉をいっぱい使う。笑う方が少ない。笑顔で楽しいという雰囲気を重視するようになった。

・でも、仲良しクラブではないという、大切なのはビジョンで、それを追求する。やりがいを通して、楽しさが生まれてくる。これがウェルビーイングにつながると指摘した。

・ウェルビーイングは、1)本人の気持ち、2)他の人との関係、3)自らの成長、4)何らかの目標、5)自分に合った環境、6)自主性の発揮、がよい方向で実感できる時に高まる。

・笑顔になるには、①いいことはある、②いいことをする、③いいことを探すことによって、生まれるという。楽しいことを想像していると、モチベーションが高まる。

・思い出し笑いを続けているだけで、性格が前向きになる。性格がポジティブになるには、まず動くことである。体を動かすことで五感が刺激を受ける。互いを気づかいつつ、夢を持つことの重要さを強調した。

・予防医学研究の石川氏(医学博士)は、ウェルビーイング(生活満足度)をより重視せよと提言する。1人当たりGDP+well-beingを新しいKPIとして社会をみていく必要があるという。

・ウェルビーイングの向上にもっと務める必要があり、ウェルビーイングの悪化は、国、社会、組織、企業を悪化させる。主観的ウェルビーイングを測定してみると、日本は悪化している。国単位では、1)経済成長、2)民主化、3)社会的寛容、によってこれが決まる。社会的寛容とはダイバーシティ&インクルージョンで、差別をしないことである。

・日本は、この社会的寛容度が落ちている。大人も子供もシニアも、もっと居場所をたくさん持つ必要がある、と石川氏は指摘する。居心地のよい場所をデジタル空間も含めて増やす。充実感を得られる居場所がないと希望が湧いてこない。いろんなつながりが可能性広げよう。

・人生100年とすると、90歳まで働く時代が来る。働き方は多様なので、社会との関りの中で、社会に貢献し、何らかの収入を得つつ、自らも社会やコミュニティの世話になるという相見互いの文化創りである。健康一番の意味は深い。健康経営を実践する企業の次の一手に注目したい。

 

日本市場の変革はいかに

・東証が企業に要請した改革は、成果を一段と発揮してくるだろうか。1989年12月末の日経平均は38915円、TOPIXは2884.8、いずれも史上最高値であった。あれから34年、遂にピーク更新を実現した。さらに上昇するには、上場企業の踏ん張りにかかっている。

・当時、2つの見方があった。1つは、明らかにバブルであり、これが剝げるので、大幅下落は不可避である。これが現実となった。もう1つは、いずれ業績がついてくるので、調整局面は克服できるという意見であった。これが30年も続いた。

・昨年3月に、東証は「資本コストと株価を意識した経営の実現に向けた対応」をプライム・スタンダード市場の上場企業に要請した。これはインパクトがあった。しかし、その後のフォローアップをみると、実際に対応策を開示している企業はまだ十分でない。

・何を対応せよと言ったのか。まずは、現状を分析せよ。資本コストや資本収益性を把握して、取締役会で確認する。財務分析としてのデータはすぐに出せようが、なぜそうなっているかの要因分析となると簡単ではない。なぜできないのかと、自らに問うことになる。不都合な現実にきちんと向き合う必要がある。

・次に改善計画を策定し、それを開示せよ。改善の方針・目標・期間を策定し、投資者に分かり易く開示することが求められている。資本コストを上回る資本収益性をいかに達成するのか。ES(エクイティ・スプレッド)=ROE-CC(資本コスト)であるから、ROEの目標を定めて、それをどう実現していくかの戦略を立てる。

・財務戦略にとどまらない。全社的な経営戦略も見直しが必要である。しかも、PBR=ROE×PERであるから、ここには株価が入ってくる。株価はマーケットが決めるものと傍観しているわけにはいかない。

・第3に、その計画を実行せよ。投資者との積極的な対話を実施していく。マーケットで株を売買するのは投資者である。企業価値は株価に反映される。株を買うのは投資者である。投資者が企業に魅力を感じ、価値向上が期待できるとなれば、株を買ってこよう。ここに、対話を通してアピールできるか。

・まずはアピールできる中身を作り、それを実現する。前進していることをKPIで示していく。外部環境の変化に左右されて、すぐに絵にかいた計画に終わってしなうようでは信頼されない。言い訳は通りにくい。自信のない経営者は計画の開示や対話を躊躇してしまう。

・つい、不言実行で行きたくなる。不言実行では、社内の共感も得られにくい。やはり、有言実行、ステークホールダーの皆を巻き込んで、実現していく仕組み作りが求められる。

・東証は、個々の上場企業の開示状況をフォローするとともに、こうした要請を反映する企業を中心にしたインデックスを開発した。「JPXプライム150指数」である。

・これは本物か。価値創造に優れているのだから、TOPIXよりパフォーマンスがよくなければ意味がない。そうなるかを中長期でみていく必要がある。

・150社はどのように選定されたのか。プライム市場で時価総額上位500社からES(エクイティ・スプレッド)基準で上位75社、PBR 1倍以上で上位75社を選んだ。ESがプラスで、ROEは8%以上、PBRは2期の数値でみている。ESは資本収益性でしっかり価値を作っているかを測る。PBRは非財務情報も織り込んだ市場の評価を示している。

・定期的に銘柄の入れ替えも行っていく。JPXプライム150は、時価総額でプライム全体の5割をカバーする。設定時で見ると、ROEは15%で、TOPIXの8.3%を上回る。S&P500も15%なので、同等である。

・PBRは2.6倍で、TOPIXの1.2倍を上回っていた。S&500は3.1倍であったから、まだ差が大きい。EPS成長率(5年平均)は11%で、TOPIXの4.0%を上回り、S&Pの7.9%も上回る。

・過去7年のデータでみると、JPXプライム150の対TOPIXに対するトラッキングエラー(乖離度合い)は3.2%であった。つまり、TOPIXとは違ったパフォーマンスを示している。また、過去10年の属性でみると、大型株(サイズ)、成長株(グロース)に対してプラスの連動があり、割安株(バリュー)に対しては、マイナスの連動を示した。

・こうみてくると有望そうである。2つの視点があろう。1つは、これらの150社は価値創造で先行している企業である。むしろ出遅れて問題にされた企業が本気を出してくるならば、そちらのパフォーマンスの方がこれからよくなるのではないか。

・もう1つは、先行企業の価値創造はすでに株価に織り込まれてしまっているので、パフォーマンスでリードすることが難しいのではないか。あるいは、S&Pの方が世界をリードする成長企業が入っているので、やはり日本負けてしまうのではないか。これらの懸念があろう。

・まずは中長期的にみていく必要がある。その意味では、JPXプライム150に連動するETFとS&P500に連動するETFに投資して、その動きをフォローしたい。

 

日本製鉄の成長戦略

・日本製鉄は、2023年12月に米国のUSスチールを買収すると発表した。買収予定額は約2兆円(141億ドル)である。2024年3月期の事業利益(国際会計基準)7400億円、2023年9月末の自己資本4.6兆円、自己資本43.3%に対して約2兆円である。

・日本製鉄にとって、1)グローバル戦略を進め、2)脱炭素に向けて、EVに使う高機能鋼材の需要を取り込み、3)米国市場で地位を固めることができる。

・USスチールにとっては、1)先端の技術を取り入れて高級鋼材市場で優位に立つことができ、2)投資の面でも優位性を発揮することができる。

・かつて、戦後の高度成長期に「鉄は国家なり」と、日本の産業をリードした。国内市場が成熟した後は、輸出に力を入れたが、これが貿易摩擦を引き起こし、一時期かなり苦労した。

・まずは国内再編を進めた。新日本製鐵と住友金属工業、さらに日新製鋼も吸収して、今の日本製鉄に至った。2022年の世界の鉄鋼メーカーの粗鋼生産量で、上位10社中6社が中国系、中国以外ではアルセロールミッタル(欧)が2位、日本製鉄が4位、ポスコ(韓国)が7位、タタ(印)が10位であった。

・今回、日本製鉄4437万tとUSスチール1449万tが合併して、世界3位のメーカーにのし上がることができる。USスチールは米国で3位、世界では27位にとどまる。かつての王者もかなり凋落している。かつて、日本製鉄は中国の宝山製鉄、韓国のポスコの高炉建設に当たって、全面協力を行った。当時、双方の製鉄所を見学に行って、話も聞いた。

・日本製鉄は、国内の生産能力を調整する中で、海外の能力を買収によって高めてきた。2014年のグローバルな能力58百万t(うち海外6百万t)に対して、2023年は66百万t(同19百万t)となっている。USスチールが加わるとさらに15百万tの拡大となる。

・USスチールの経営陣はM&Aに合意しているが、USW(全米鉄鋼労組)や米国政府がこのM&Aを受け入れるか。経済安全保障や雇用確保という点で摩擦もありうる。政治的にはまだ紆余曲折がありそうだ。

・この買収金額は妥当なのか。割高なのか。1株55ドルの全株取得に対して、4割のプレミアムを付けている。日本製鉄は、2019年にインドで7700億円(9百万t)、2022年にタイで550億円(3百万t)の買収を実施している。グローバル粗鋼能力1億t体制作りに向けて、着々と手を打っている。M&AではPMIがカギである。

・USスチールは、3/22現在、時価総額1.35兆円、PER 11.1倍、PBR 0.81倍、ROE 7.1%。M&A公表後、株価は一時30%ほど上昇したが、その前のPBRは0.7倍前後であった。、日本製鉄は、時価総額3.58兆円、PER 7.4倍、PBR 0.74倍、ROE 10.0% である。

・今後の展開はどうなるか。M&A公表前に、日本製鉄の個人投資家説明会に参加する機会があった。世界の鉄鋼需要はこれからも増える。一方、日本の需要は減る方向にある。でも、国内の高級鋼の需要は増えていく。海外では成長地域で生産を拡大していく。これによって、全体の成長性を高めていく。

・目標は粗鋼で1億t、事業利益で1兆円を目指す。ここ3年で収益性を高めてきたが、これは、1)国内での能力を減らして損益分岐点を下げ、2)原材料のコストアップを反映した適正価格を浸透させ、3)得意とする高級鋼(EVモーター用電磁鉄鋼や軽量化に向けた超ハイテン鋼)にシフトし、4)海外の収益性を大幅に高めてきたことによる。

・インドで第4位の企業をアルセロールミッタルと共同で買収を実施した。カナダでは原料炭の事業に出資した(EVRへ20%出資、2000億円)。水素化が進んでも強粘結の石炭は必ず必要となるので、自ら投資しておくことにした。

・CN(カーボンニュートラル)への事業のトランスフォーメーションはこれからである。電炉、水素還元鉄、高炉水還元など、新しい事業シフトがイノベーション共に必要である。これによって、2050年にCNを目指す。

・当社は素材としての鉄鋼をユーザーに提供する。サプライチェーンの中で、当社は上工程にいる。TCFDのスコープ3において、いかに炭素排出を減らしていくか。

・これに貢献する鉄鋼製品やソリューションをNScarblexというブランドで提供し始めた。低CO2鋼材である。すずを使用しない金属容器材料、耐腐食性に優れたシームレス油井管、耐摩擦鋼板、エネルギーロスの少ない方向性電磁鋼板など、幅広い領域で高機能化が進むことになろう。

・高機能鋼板を中心に新しい市場を開発し、途上国と先進国で、現地生産で供給力を高め、CNに向けた新しいビジネスモデル作りが始まっている。この進展が実効性を伴ってくれば、ROEで10%、PERで10倍超が実現しよう。PBRも1.0倍を超えてこよう。まずはUSスチールのM&Aの進捗に注目したい。